「共和国前進」を率いるマクロン大統領のもとで内務大臣をやっているジェラルド・ダルマナンが反ユダヤ主義的な記載を自著の中でしていると糾弾されている話を先日、書きました。ダルマナンは政教分離を原則とするフランス憲法とはそぐわないと彼が考えるイスラム主義者の分離独立主義を本の中で批判していたわけですが、ナポレオン1世が19世紀初頭に問題のあるユダヤ人の統合で苦労していたことを述べていたことが反ユダヤ主義として糾弾されているのです。
これは今のフランスの政界で最もホットな話題です。内相のダルマナンはフランス東部ストラスブールで現在、建設中のモスク(The Eyyub Sultan mosque)に住民の税金250万ユーロが補助金として使われていることを疑問視しています。トルコのイスラム教徒のグループが国外にいる人々のためにと建設を進めていることもあって~トルコが欧州連合入りを結局実現できなかったことで明らかなように~イスラム教の問題が欧州連合との間で壁のように立ちはだかっているといって過言ではなりません。しかし、地元の自治体は公金投入は政教分離のもとで法の許す一定の枠内で適法に進めていると抗弁しています。以下はフランス24の英語版の見出し(今年3月24日)です。
Row erupts in France over plans to use state funds to build Strasbourg mosque
「ストラスブールのモスクへの公金投入をめぐってフランスで議論沸騰」
内相のダルマナンは首相のジャン・カステックスらとともに、昨年からイスラム主義の分離独立主義に抗する新法の可決を進めています。フランス24の報道によると、これはフランス共和国憲法にそぐわない過激なイスラム原理主義の教義をモスクで信者に説くことを禁じ、また外国のイスラム主義勢力からのモスクへの資金流入などを規制することが狙いです。さらに一夫多妻の家族のフランスへの移住を禁止するものでもあるようです。ただし、イスラム教を弾圧するのが狙いではなく、むしろ信仰の自由への脅威となるイスラム原理主義を封じるのが目的だとされています。
この件で興味深いのはイスラム主義者への強硬姿勢を取っているダルマナン内相が同時にまた、反ユダヤ主義者だと批判されていることです。もし、本当にそうであるなら、イスラム教徒への圧力の次に標的にされるのはユダヤ系の住民ではないかという不安をかき立てられる人が出てくるでしょう。カトリック信者が歴史的に多いフランスにおいては、占領軍のナチスドイツとヴィシー政権のもとでユダヤ系の人々が第二次大戦中に迫害され、多くの人がアウシュビッツなどの強制収容所に送られて殺された歴史があります。このテーマについてはまた掘り下げていきたいと思っています。
さてこの反ユダヤ主義というテーマですが、私が関わっていますYouTubeチャンネル「フランスを読む」で、9時間半に及ぶドキュメンタリーの大作「ショア」を監督したクロード・ランズマンの回想録について、その翻訳者へのインタビューを10分ほどにまとめてUPしたばかりです。「ショア」と言えばユダヤ人虐殺の真実に迫っていく映画で、ホロコーストを考えるうえで無視できない映画です。語り手は「パタゴニアの野兎 ランズマン回想録」を翻訳した中原毅志さん。奥深い言葉があります。ぜひご覧ください。