「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

高齢化社会に向かうフランスの1冊  ピエール・パシェ著「母の前で」

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ピエール・パシェ著「母の前で」(根本美作子訳)

 2018年の秋に日本で翻訳出版されたこの本は、100歳を超えて頭も呆け、言葉も日々出てこなくなり、息子である著者ピエール・パシェ(Pierre Pachet , 1937-2016) のことも認識できなくなっていく母を病院に何度も見舞いに訪ねて、その時々の思索と経験をつづったものです。ピエール・パシェはフランスでは著名な作家ですが、日本ではまだほとんど翻訳されていません。ですから、貴重な一冊です。翻訳したのは明治大学文学部の教授である根本美作子氏。パシェはパリ第七大学の教授を生前はしており、根本氏は学生時代に「眠りと文学」というテーマで博士論文を書くときに留学して大学で指導を受けたとのこと。それ以来、パシェの文学作品を読み込んできた、というだけに深い理解の上に翻訳がなされているのです。パシェはノンフィクションの作家で、フィクションを書きません。自分の体験を通してその思索を言葉に紡いでいくタイプの作家だそうです。実際、私も本書を読んでみましたが、なかなか短時間で読み終えて終了、というような本ではなく、手元に置いたまま折に触れて、読み直してみたい類の本だと思いました。高齢者は安楽死させろ、というような野蛮な言葉すら飛び交う今の世界ですが、パシェの本を読んでいく中できっと、今までたどり着かなかった奥深い思索に触れることができると思います。

    前にも触れましたが、私が関わっていますYouTubeのチャンネル「フランスを読む」で根本氏にパシェの「母の前で」について10分ほど語っていただきました。この映像で最も印象に残ったのは自分が翻訳した本の前書きのところを朗読されたところでした。とにかく、すらすらと文章を朗読されるのです。滅多に経験できない、実に素晴らしい朗読です。この朗読を何度も聞くたびに、作家の世界にどれほど翻訳者は深く関わり、想像力を使っているかが感じられると思います。ぜひご覧ください。

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