「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

今年フランスで浮上したテーマ 家族内のインセスト(近親相姦)とペドフィリア(小児への性的行為)

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カミーユ・クシュネル著「ファミリアグランデ(大きな家族)」

 フランスで2021年の初頭に大きな話題となったのがカミーユ・クシュネル著「ファミリアグランデ」という本で、なぜ話題を呼んだかと言えばフランスの学術界で著名なスター的夫婦の足元で起きていたインセスト(近親相姦)とペドフィリア小児性愛)がおよそ30年後に娘の告発として描かれているからです。といっても、被害者は著者のカミーユ・クシュネルではなく、彼女の双子の兄弟でした。私は未読ですが、かなりの記事がフランスで出ています。クシュネルの実の父親が「国境なき医師団」の創設者の一人で、元外務大臣のベルナール・クシュネルであるということも話題に拍車をかけました。

  カミーユ・クシュネルの母親が再婚した結果、一緒に暮らし始めた義理の父親が当時まだ14歳くらいの双子の兄弟に性愛を抱き、父と子が性的に結びついていったのです。告発されているのはかなり著名なの政治学者、オリヴィエ・デュアメル。社会党ミッテラン大統領を取り巻く知的サークルの中心的人物だっとされます。インセストと言ってもこの場合は血はつながっていません。本書が今年の1月、年明け早々にパリで出版されて、大きな反響が起きたのは言うまでもありません。#Me Too運動の流れに位置づけられると思います。

  そして、この告発が火を放った結果、さらに波紋が大きくなっているようです。今、著名な女性ジャーナリストで最近、政治家に転じたとされるオードリー・ピュルバール(Audrey Pulvar)が、マルチニック出身で政治家だった父親がかつて犯した、彼女のいとこの女性3人への「ペドフィリア」を告発したのです。報道によると、父親がまだ幼女だったいとこらに性的関係を強い、そのうち一人に対しては繰り返しレイプをしていたと告発しています。インセストペドフィリアは同じではありませんが、家族の中で実の親あるいは義理の親と性的関係になるとすれば、インセストペドフィリアでもあるケースも多々あると思われます。インセストはフランス社会の根底に潜むかなり大きな問題のようです。

  実際、インセストがテーマになったものでなくても、いろんなところでインセストのエピソードが出てくるのです。たとえば歴史学者のイヴァン・ジャブロンカが実際の女性誘拐殺人事件を題材に書いた話題作「レティシア」でも、里親にレイプされる双子姉妹の話が重要なエピソードとして絡んできます。両親に事情があって里親に引き取られたのに、そこで養父からレイプされるのではたまったものではありません。「レティシア」は名古屋大学出版会から真野倫平訳で「歴史家と少女殺人事件 レティシアの物語」として最近、翻訳出版されたばかりです。歴史学者のイヴァン・ジャブロンカは男がフェミニズムに参加する時代が来たと言っています。上っ面な自由・平等・博愛ではなく、人間への真の敬意が要求される社会へと進化できるかがフランスに問われ始めています。そして、そのためには「家父長制社会」を変える必要があるのではないか、と彼は考え始めたのです。

  イヴァン・ジャブロンカには「公平な男性」(未訳)という著書もあるのですが、彼は人類の歴史を振り返り、なぜ男性が女性を支配するに至ったか、家父長制の起源と歴史を検証しています。そして、過去20~30年の産業社会の劇的な変化で女性の役割とされてきた分野の重要性が増してきたことで男女の力学に変化が起きていると語っています。過去数十年が女性が男性の職業分野に進出してきた歴史だとすれば、今後は逆に男性が女性が背負わされてきた育児や料理、その他のジャンルに参入して、女性から学んでいく時代であると語っています。インセストペドフィリアの問題をセックスの問題だけにとどめず、その背景にある社会の力学に目を向ける必要があるのだと思います。

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イヴァン・ジャブロンカ著「歴史家と少女殺人事件 レティシアの物語」