「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

バイデン大統領の経済政策 ニューヨークタイムズの報道を読む

 バイデン大統領が就任して、注目の最初の100日間が終盤に向かっています。ニューヨークタイムズは<Biden's Task :Overhaul the Economy as Fast as Possible>と題する記事を3月24日に出しました。新型コロナウイルスによる停滞を打破するために、総額4兆ドル(3兆ドルの投入と1兆ドルの減税)を行うほか、道路や50万の電気自動車用の充電ステーションの設置などのインフラ整備、5Gと呼ばれる第五世代移動通信システムの確立、先端のバッテリーの生産など、製造業のテコ入れを行う決意であることを記しています。記事では昨年の選挙戦でバイデンは製造業と技術革新の分野で500万人の雇用を新たに積み増すと語ったとされます。これは長年のトレンドと逆を行くことでもあり、2008年のオバマの選挙キャンペーンと通底するテーマです。そして、それは製造業のテコ入れと「アメリカファースト」を掲げたトランプとも通底します。

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米国の労働者に占める製造業従事者の割合

 では米国の製造業をめぐる状況を見てみます。上のグラフはU.S.Bureau of Labor Statisticsによる公式のものです。製造業者の人口は下の青い線で示されています。2021年2月の段階で、製造業の人口は約1220万人です。これは2017年に製造業を復活させるとうたって就任したトランプ大統領時代に、少なくとも労働人口として製造業には顕著な変化がなかったことを示しています。このことがトランプ大統領の再選失敗につながった可能性があるかもしれません。中国との貿易上の闘いも、米国の製造業人口が増えてこそ意味があったのです。20世紀末のグローバル化の波で米製造業は空洞化していき、それが中流階層の減少につながったことは周知の事実です。

  statistaの統計資料によると、米製造業の平均年収(2019年比較)は72,735ドルですから、日本円換算でおよそ793万円。一方、宿泊業や食のサービスの平均年収は31,679ドル(345万円)ですから、比較すれば製造業者はかなり高い収入です。こう見ると、バイデン大統領が製造業分野で500万人の雇用を新規に作り出す、とうたっているのはオバマ大統領の経済政策と通底しており、中流階層のボリュームアップを図ろうとしているのでしょう。この製造業者のボリュームアップのためにはアメリカの製造業にしかできないイノヴェーションが必要です。一方でAIロボットが1機で何人分も仕事をこなしている側面もあります。ですから、そんなに簡単に達成できる数字ではありません。

https://www.statista.com/statistics/243834/annual-mean-wages-and-salary-per-employee-in-the-us-by-industry/

  ニューヨークタイムズの記事ではもう1つ面白い点がありましたが、それは景気回復のための政府支出には女性が存分に働きやすい社会を作るための託児施設とか、高齢者を介護する施設などの充実を求める声を紹介していた事でした。また教育の重要性もです。女性の参加が新しいイノベーションにつながる可能性があります。単純にGDPを増やすことを目的にしないで、どのような社会を作るかが経済政策の前提になるでしょう。