日本ではTV番組の録画をYouTubeに勝手に載せると通報されて削除されたりしますが、フランスでは逆に放送された番組をYouTubeに放流している国立の組織があります。ina=フランス国立視聴覚研究所(フランスこくりつしちょうかくけんきゅうじょ、仏: L'Institut national de l'audiovisuel、略称:INA)~ウィキペディアによる~です。
TVだけでなく、ラジオも対象になっています。放送局からコンテンツを提供してもらい、それを研究者のために管理・公開しているほか、管理している番組のすべてではありませんが、市民に有益と判断したコンテンツを放流しているわけです。国立の放送局のコンテンツだけでなく民間放送局のコンテンツも対象になります。シャンソンから哲学者や学者、作家、政治家、著名人のインタビューなど様々なものが公開されています。番組丸々1本というだけでなく、臨機応変に使える番組の中から一部を切り取って放流したりもしています。私は日本もこの制度に習って放送局の番組を管理し、有益なものは無料でインターネットで公開するべきだと考えています。長く見られると思えば作る側も慎重になるでしょう。
以下は人類学者のクロード・レヴィ=ストロースに、著名なTV司会者のベルナール・ピヴォ(本を紹介する番組で知られる)がインタビューした1984年のTV番組をinaがYouTubeに公開したものです。ここではレヴィ=ストロースの主著の一つ「悲しき熱帯」のもとになった1939年のブラジル遠征とその後の執筆の経緯などについて話していますが興味深いものです。実に貴重な文化資料です。レヴィ=ストロースともなると、著書の多くが日本語訳されていますが、それでも映像を見ると、語り方や人となり、ユーモアなどを感じることができ、そういうことが本を読むときの手がかりになるものです。その人の思考の基調となる声=トーンを知るまたとない機会となるわけですから。
日本でこのような制度がないのは、政治家や行政組織、放送局の住民へのサービス意識の希薄さに由来するものだと思います。それと同時に市民がそれを要求しないことも、この制度が始まらない理由でしょう。放送局の私財というより、すでに歴史的な文化遺産なのですから。