「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

リベラシオン紙の風刺漫画家Willemが引退

 フランスのリベラシオン紙と言えば1970年代にサルトルが創刊した左翼紙で、当初はスタッフ全員が平等な給料をもらっていたなど、いろんな伝説があります。そのリベラシオンも時代にもまれ、サルトルが編集長をしていた頃とはだいぶん違ってはいるようですが、それでも気概のある媒体の1つです。

  なかでも象徴的なのが風刺漫画家のウイレム(Willem)の健筆で、シャルリ・エブドのカビュらが殺された今となってはますます希少な風刺漫画家となっていました。そのウイレムもついに40年の長丁場を経て、筆を置くことになりました。ウイレムはオランダ人で1968年のパリ五月革命の頃に渡仏し、その後、移住して漫画を描き続けてきました。ですから当初はドゴール大統領の風刺漫画を描いていたものでした。ウイレムは漫画家のみならず画家や文化人から尊敬される存在です。まず絵がうまい。その絵も独特のデフォルメが施されていて、ウイレムの目の確かさを示すもので、いつもうならされていました。ウイレムがいなくなるリベラシオンはまた寂しくなります。

 ウィレムの漫画で筆者が忘れがたい1枚は、殺戮や掠奪ですさんで不幸な貧しい人々の大平原を子供に示して「ごらん、お前の財産だよ」と言う資本家の父親を描いた1枚です。こんなボロボロの世界を自慢げに子供に示し、相続させようとする人間とはいったい何者なんだ?という強烈な風刺があります。
  マクロン大統領の就任100日間を風刺したシリーズも印象深いものがあります。たとえば、王冠を被ろうとしたマクロンの下半身に多くの男女が群がり、フェラチオをしていることを想像させる1枚。強烈でした。また、マクロンが大統領に選出された翌月の下院議員選におけるマクロン新党・共和国前進の大勝利と社会党の惨敗を描いた1枚では社会党が絶滅した象に描かれ、死体が散らばっているものです。「象の墓場」と題されたこの1枚では象の屍の上に探検家のマクロンが聳え立っています。この象は当時の社会党党首(第一書記)、ジャン=クリストフ・カンバデリスでしょう。ドゴール時代から風刺漫画を描いてきたウィレムが未だに健在であるばかりか、最前線に立っていることを示すものでした。

  ウイレムの本名はBernard Willem Holtrop (1941-)。 オランダに生まれて五月革命のあった1968年からフランスに移住。奥さんのMedi Holtropも画家をしています。

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ウイレム(向かって左)パリの書店の集いにて。