「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

フランス政府が主張している「イスラム急進主義=急進左翼主義者」の問題をニューヨークタイムズはこう書いた 

 「ニュースの三角測量」では1つの出来事も3カ国の、あるいは3言語の媒体を通して立体的に考えようということを掲げています。そこでこのブログでも何度か取り上げていますフランス政府が今、大学が「イスラム急進主義=急進左翼主義者」で汚染されていると主張している問題を大西洋を挟んだ米国のニューヨークタイムズがどう報じているか見てみます。

Heating Up Culture Wars, France to Scour Universities for Ideas That ‘Corrupt Society’

The government announced an investigation into social science research, broadening attacks on what it sees as destabilizing American influences.

  見出しと小見出しがこれです。2月18日に掲載されている記事ですから、フランスの高等教育担当大臣、フレデリケ・ヴィダルの「イスラム急進主義=急進左翼主義者」の研究者を糾弾する声明が出たすぐあとです。ニューヨークタイムズはこれを「文化の戦争」という視点でとらえていることが目を引きます。とくに、ここではマクロン大統領の言葉も紹介しながら、「イスラム急進主義=急進左翼主義者」の源流は米国のポストコロニアルという研究領域にあり、その研究領域がフランスに輸入されて、フランスのアイデンティティを揺さぶっているとフランス政府は訴えているというのです。特に「反フランスの自虐」を押しつけている、という記述を読むと、そっくりそのまま日本でネトウヨたちのキーワードである「反日」や「自虐」と通底していると思いました。ですから、米国の目を通してこの問題を見ると、ダイレクトにこれをフランスからの媒体や知人の報告を介して見ていた場合ではとらえ得なかった視点があったことに気がつきます。

https://www.nytimes.com/2021/02/18/world/europe/france-universities-culture-wars.html

  ニューヨークタイムズは、少なくともマクロン大統領を始め、フランス政府の政治家たちはアメリカ型のマルチカルチュラル=多文化主義の国を目指したくない、と考えていることを描いています。さらに来年のマリーヌ・ルペン党首が率いる極右政党「国民連合」(RN)の基盤を切り崩すために与党「共和国前進」は自ら右傾化を進めているとしています。この傾向は社会党フランソワ・オランド大統領時代にそのもとで、マニュエル・ヴァルス首相が右傾化していった事情とよく似ています。

 

  このニューヨークタイムズの記事の中で最も興味深いくだりは次でした。

「The expression “Islamo-leftism” was first coined in the early 2000s by the French historian Pierre-André Taguieff to describe what he saw as a political alliance between far-left militants and Islamist radicals against the United States and Israel.

More recently, it has been used by conservative and far-right figures — and now by some of Mr. Macron’s ministers — against those they accuse of being soft on Islamism and focusing instead on Islamophobia.」

 (「イスラム急進主義=急進左翼主義」という表現が最初に登場したのは2000年代初頭のことで、フランスの歴史学者、ピエール=アンドレ・タギエフが極左活動家とイスラム急進主義者が米国とイスラエルに反対するために政治的に手を結んだと考えた事態を示すために作り出した言葉だった。それがもっと最近ではこの言葉は、保守や極右が~そして今やマクロン大統領の下の閣僚たちすら~イスラム急進主義にソフトな対処をしているとか、嫌イスラムに焦点を当てるような人々を非難するために用いられている)

    この記事ではcoinedという動詞の過去形が使われています。coinという動詞について辞書を引くと、コインという響きの通り、「硬貨を鋳造する」という動詞の意味もありますが、そのほかに「(新語・うそなど)を造り出す」という意味もありました。この言葉を選んだ記者の心の中にはそういうニュアンスを込めようとした可能性があったのかもしれません。