「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

パトリック・ブシュロン編集「フランスの世界史」(795ページ)  「国民の歴史」とは異なる歴史書の試み

 先ほどのニューヨークタイムズの記事にありましたが、今のマクロン大統領らの政権は右傾化して、極右とほとんど違いが判らない状態にまで至っていると言っても決して過言ではありません。マクロン大統領や閣僚たちは、多様な人種に基づいた文化の多元主義を頭から否定しているとニューヨークタイムズは見ています。それがポストコロニアルとか、マルチカルチュラルと言った脱植民主義についての学問領域を否定的に見て、それはアメリカ発のものでフランスとは異なるという風に考えているらしいことです。この分野の研究者が特に「イスラム急進主義=急進左翼主義」として高等教育担当大臣らから指弾されているようです。実は死の脅迫を受けている私の知る人もこの領域の研究者です。

  日本から見ると、フランスとアメリカ、どっちも移民がたくさんいる国家みたいに見えますが、フランスはアメリカとは一線を引いていて、「移民の国」ではないと自己規定しているフシが記事から感じられました。フランスにはフランス国民の歴史があり、移民たちはそれを尊重せよ、というのが国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン党首のモットーです。日本にも「国民の歴史」があり、その源流をたどっていくと、神話と溶け合う局面があるはずです。やはり3つの国で、建国の歴史の違いが今にも多大な影響を与えています。

 しかし、近年、フランスではこの「フランス国民の歴史」という歴史の見方を覆す歴史書の試みが行われています。下の「フランスの世界史」(Histoire mondiale de la France)は800ページ近い大作で、122人の歴史学者が寄稿して編み上げています。2017年の出版です。分厚いです。でかいです。もともと「フランス国民」という確たるものがあったのではなく、過去100年のマグレブ地方などからの移民だけではなく、もっとさかのぼると、ゲルマン民族やローマ人、北方からはバイキングなどが何世紀にもわたって移民してフランス国民を構成しているわけですから。そこで本書では単線的な王の歴史ではなく、周辺諸国との関係を含めた時々の歴史を編纂しているのです。歴史も複線なら視点も複眼です。おそらくマクロン政権の閣僚たちには、植民地主義的なフランス中心史観の歴史を解体する研究者たちの試みが、フランス憲法のライシテ(世俗主義)を否定するイスラム急進主義と手を携えている、という風に見えるのかもしれません。

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パトリック・ブシュロン編集「フランスの世界史」

  実は、私は今、これと同様の試みを中国でやる人が出てくることを期待しています。中国国民の歴史みたいな中華思想を解体して、複眼で「中国の世界史」を書く歴史学者が出て欲しいと思うのです。