「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

「民主党の敗北の起源」 UCバークレー校の社会学者の鋭い考察

  5年前の2016年12月、ヒラリー・クリントン候補がドナルド・トランプ候補に惜敗した翌月、カリフォルニア大学バークレー校の社会学者、ジェローム・カラベル(Jerome Karabel)名誉教授はヒラリー・クリントン候補を掲げた米民主党がなぜ敗北したのかについて考察をハフィントンポストに寄稿しました。タイトルは「民主党の敗北の起源」です。「敗北」と訳しましたが、テキストでは「debacle」(デバックル)となっており、敗北という以上に、もっと惨憺たる敗北あるいは崩壊と言った意味合いを持つ強い言葉です。

 

The Roots Of The Democratic Debacle

The defeat of Hillary Clinton was a consequence of a political crisis with roots extending back to 1964. The warning signs should have been obvious.

https://www.huffpost.com/entry/the-roots-of-the-democratic-debacle_b_584ec983e4b04c8e2bb0a779

 この論考、現在の米国の二大政党制を考える上で、とても参考になるものでした。書かれていることは民主党ビル・クリントンと妻のヒラリー・クリントンのもとで、労働者の政党から離脱し、大企業寄りの中道政党に変質してきた経緯です。つまり、英国のブレア首相と同様に、いわゆる第三の道を取ってきたことで、結局、労働者から見放される目に陥ってしまったことを指します。たとえばクリントン大統領が最終的には発効させた自由貿易協定のNAFTAは米製造業の空洞化につながりました。トランプ大統領はラストベルトの白人労働者たちに、民主党クリントン夫妻とNAFTAによって、どう米製造業が没落したかを語りかけ、それが選挙戦の決定打となったことはまだまだ記憶に新しいことです。

 さらに、ルーズベルト大統領が率いたニューディール政策によって戦後も民主党の優位が続いてきたにもかかわらず、1964年の選挙から共和党民主党の優位を切り崩す戦略を立てて、それが奏功し、レーガン政権の誕生を生み出した経緯もこのテキストを読むとよく理解できるのです。

 私が現在のバイデン大統領の先行きを考える上でも、このテキストを参考にさせていただいています。バイデンという政治家はもともとはクリントン夫妻に近いポジションの政治家だと思います。その意味では民主党の「debacle」に責任のある政治家の一人ではないかと思います。にも拘わらず、昨年の選挙戦で中盤以降、民主党陣営では極左バーニー・サンダース候補らの主張を取り入れ、二者択一に陥ることなく、民主党の幅広い陣形を形成しました。このプロセスの中で、ニューディール時代の民主党の復活という流れが生まれてきたのではないかと思います。

 それができたのはここでカラベル教授の論考が示すような民主党の何が問題かを2016年の敗北時に精査し、その轍を活かしたことが大きいと思います。たとえば、昨年5月にミネアポリスで黒人が警官に白昼堂々と殺害された後、暴動も各地で起きましたが、バイデン大統領は人種間の軋轢にせず、それを政治的に解決する道を示して回りました。この時のバイデン大統領の取った道はヘイトスピーチの道を歩いたトランプ大統領とはくっきりと対照的でした。ルーズベルト大統領時代の民主党の強さの原点には、白人と黒人の労働者が共闘できた構図があり、カラベル教授もそのことを書いています。60年代は公民権運動の激化によって白人労働者と黒人労働者に楔が撃ち込まれ、多くの白人労働者の民主党離れを招いてしまい、ニューディール政策を支えた共闘路線にひびが入ってしまったのです。バイデン候補がカラベル教授の論考を読んでいたかどうかはわかりませんが、民主党陣営はまさに過去の失敗から学んでいました。

 そして、この論考は日本の政治においても1つのヒントになると思います。