「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

COVID-19で暴力の対象となるアジア系アメリカ人に大きなる政治的覚醒の兆し

  最近、アトランタで6人のアジア系女性が射殺された事件など、中国発のCOVID-19がアジア系に対する暴力事件をアメリカで引き起こしています。その一方で、今まで政治勢力としてあまり見えなかった「アジア系」が、急激に精神的に覚醒して、政治勢力として台頭し始めていることが4月4日付のニューヨークタイムズで報じられています。と言っても、まだその過程の真っただ中で、どういう風に政治的勢力として見える存在になってくかはこれから明らかになる模様。黒人やラティノと言ったエスニックグループの政治力はしばしば報じられており、可視的な存在でしたが、アジア人の場合は経済力も支持政党もあまりまとまりがなかったとされます。太平洋を挟んだ東アジア1つを見ても、中国と韓国と日本を見れば、一筋縄では行かないであろうことは想像できます。しかし、ひとたび太平洋を渡って米国市民になったなら、いかなるバックグラウンドがあろうとみんな米国ではマイノリティになります。

Amid Awakening, Asian-Americans Are Still Taking Shape as a Political Force

Divided by generation, ethnicity and class, but currently galvanized by a surge of racially motivated attacks, Asian-Americans are growing rapidly as political players.

https://www.nytimes.com/2021/04/04/us/georgia-asian-americans-politics.html?action=click&module=Top%20Stories&pgtype=Homepage

  今、副大統領のカマラ・ハリスはインド系であり(カリブ系でもある)、近い将来、アジア系大統領が誕生する可能性も現実になっています。インドと東アジアではまた文化的にも歴史的にも異なるのですが、広義ではアジアです。

  ニューヨークタイムズによると、アジア系が米国で増えたのは1960年代半ば以降に入国条件が緩和されて以来であり、今、アメリカ生まれの30~40代の二代目たちが政治的な覚醒を始めているのだそうです。実際、2000年から20年で有権者が倍増していることも無視できません。去年5月のニューヨークタイムズによると、20年前に約460万人だったアジア系有権者数が、昨年では1100万人に達しています。有権者全体の4.7%になります。アジア系有権者がたとえせいぜい5%に過ぎないとしても、二大政党制で激戦となった時に、1%でも勝敗を決めるものです。

https://www.pewresearch.org/fact-tank/2020/05/07/asian-americans-are-the-fastest-growing-racial-or-ethnic-group-in-the-u-s-electorate/

  暴力の標的になることをきっかけに覚醒したアジア系が、どのような集団意識を発展させていくのかには興味深いものがあります。副大統領のカマラ・ハリスの言動もその発展を左右するでしょう。ハリスの場合はインド人だった祖父はかつて英国からの独立運動を行っていたリーダーだったようです。彼女はその祖父に精神的なつながりを感じているそうです。インドも米国も同じく英国から独立した元植民地です。

  アジアの中にいると、中国、韓国、日本、インドそれぞれアジアの地政学あるいは歴史が生々しいために1つにまとまるのが簡単ではありません。しかし、ひとたび太平洋を隔てたアメリカでは意識が異なる余地があるのではないかと思います。アメリカにおいて、もし、アジア系が1つにまとまって新しいグループの感性とか意識を育てることができれば、それがアジアに還元されてアジアの平和に貢献できる、という可能性があると思います。私はひそかにそれを期待しています。