「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

「レ・タン・モデルヌ(現代)」に日本の野党共闘がなぜ誕生したかを寄稿

  私はサルトルらが創刊したフランスの「レ・タン・モデルヌ(現代)」に2018年に寄稿したことがありますが、テーマは日本の野党共闘についてでした。共産党市民連合民主党のキーマンたちに野党共闘をテーマにインタビューしたものを基盤にしています。私なりに冷戦終結後の日本の政治の流れを概説して、なぜ野党共闘が生まれたのかを考察しました。私には同誌の編集部に知人がいて、私の拙いフランス語の原稿をブラッシュアップしてもらって掲載にこぎつけたわけです。目的は日本の実情を知って欲しい、ということもありましたが、一方で、フランスの政治状況への危機感もありました。フランスも今のままでいくと、2022年の大統領選でも中道と左派が分裂したまま<極右V.S.新自由主義>の候補者の二者択一になってしまって、多くの有権者が希望を失って棄権が増えるだろうという思いです。この号がクロード・ランズマン(1925 - 2018) が編集長をつとめた最終号になってしまいました。知人の話では編集会議で満場一致で採用が決まり、「日本の事例に学ぶものがある」と編集者たちに興味深く読んでもらえたとのこと。

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「レ・タン・モデルヌ」(現代)に日本の冷戦後の政治の流れと野党共闘の必然性を書いて寄稿したときのもの。「日本の政治の最新情報~市民の運動と野党について~」 

 このHatenaのブログ「ニュースの三角測量」のテーマは日本とアメリカとフランスのメディアを同時にウォッチして、事件を多角的に見る、ということにあります。冷戦終結後、先進国で起きている政治・経済現象にはかなり同じメカニズムによるものが多いと見ています。しかしながら、それぞれの国の文化や人種構成、歴史、地理、経済組織や政治組織などの違いから、同じ原因に起因する事象が起きたとしても、必ずしも同じ展開の仕方をしません。だからこそ、比較することで他国からヒントを得ることができますし、また他国にヒントを与えることもできるのです。

 こうした私の発想の源にはたとえばフランスの社会学エミール・デュルケームが記した「自殺論」があります。これは同じ欧州の近代でも、カトリックの地域とプロテスタントの地域で自殺が起きる割合に違いがあるのかどうか、あるとしたら何に起因するのかを分析した古典です。経済発展の段階が似通っていたとしても、地域や文化、人間関係のあり方によって展開が異なる場合があることがデュルケームによって実証されていました。これは今日でも有効だと思います。逆に言えば他国で起きていることにヒントを得たとしても、そのままではすぐに適用できないケースが多いことを示唆します。    

 とはいえ、日本で1990年代から今日まで起きた事象はかなり独特であると同時に、世界の先進国を先取りした部分もあるように感じます。たとえば先日、記したフランスのネトウヨのケースもそうです。日本で起きたことが10年くらいのずれでフランスで起きているようです。おそらくバブル崩壊で右傾化に拍車がかかった日本と、リーマンショックと欧州通貨危機が直撃したフランスではタイムラグがあるものの、よく似た事態が進行していると私は見ています。社会不安の増大とともに移民やマイノリティに責任を押し付け、スケープゴートにする人が必ず出てくるものです。だとしたら、日本の経験をフランスにもっと届けてもよいのではないでしょうか。フランスで日本と同じ現象が起きるとは限りませんが、その原因は通じるものがあるのです。ですから、在日コリアンを標的にしたネトウヨたちの実像に迫った安田浩一著「ネットと愛国」などはフランスで読まれてよいと思います。実はフランスの本が日本に翻訳されることに比べると、日本の本が~漫画を除くと~フランス語に翻訳される割合は圧倒的に低いのです。ですが、そこがこれから伸びていく可能性があると思います。経済の下降、格差の増大と貧困化、テロ、大災害、原発事故などなど日本の過去30年はひどい経験がとても多かったのですが、そこにこそ手探りで道を捜し求めた私たち日本人の偽りなき人生と経験と知恵が刻まれており、それは世界に通じるような普遍性をもっていると思います。重ねて言えば、昭和の戦後の右肩上がりの繁栄の記憶よりも、平成時代の辛い負の経験をどう私たちが生きてきたかという経験とその葛藤から紡ぎ出された言葉の方が、むしろ世界に売れる日本の宝になるのではないかと私は思います。

 インターネットやZOOMなどの通信技術の発達によって、国境を越えたリアルタイムの情報交換や議論は飛躍的に進むでしょうから、その基礎となる「ニュースの三角測量」はますます必要になると手前味噌ながら思っています。