「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

ジャック・プレヴェール詩集「パロール(言葉)」は大学教育に匹敵する

  1冊の詩集が4年間の大学教育に匹敵する、と言ったら呆れられるに違いありません。しかし、私はフランスの詩人、ジャック・プレヴェール詩集「パロール(言葉)」は大学教育に匹敵すると思っています。私がプレヴェールの詩にはまったのは18歳から19歳にかけての受験生の頃で、ですから、タイミングは最悪でした。プレヴェールの詩にはアンチ・エリートの言葉が書き込まれ、権威主義への反抗精神で貫かれているからです。と同時に、踏みつけられる雑草のような庶民たちの幸せと愛をも歌っています。私は大阪の進学校と言われる高校に通っていましたが、プレヴェールにいかれて道を踏み外してしまいました。今どき、反エリートというと誤解を招いてしまうかもしれません。プレヴェールの詩の世界では教室の劣等生たちにエールを送っていて、権威主義的な教師たちを風刺している、そんな世界です。ことさらエリートを直接批判しているわけでもないんですね。プレヴェール自身が大学を出ていませんし、10代の半ばからデパートなどで労働せざるをえなかったようです。それでも知的な文学サークルにつながって詩や戯曲を書くようになり、次第にフランス文化の最前線に立つようになりました。ナチスの占領下では自由な精神を歌うプレヴェールの詩集をランスの高校生たちがガリ版で刷って自主出版していたことは歴史になっています。この時の詩が戦後大ヒットする詩集「パロール」のもとになったとされています。

 私が高校生だった当時、歌手で俳優のイヴ・モンタンがパリのオランピア劇場で復活コンサートを行い、2枚組のLPレコードを出して、日本でも間もなく売り出されました。私もそれを買って毎日擦り減るくらい聞きました。モンタンの歌の多くはプレヴェールが作詞しているのです。まあ、ですから、これは受験生にとっては危険な書であることは間違いありません。

f:id:seven-ate-nine:20210412003648j:plain

ジャック・プレヴェール詩集「パロール(言葉)」

  プレヴェールは戦後、おそらくフランス史上でも最大のヒットを誇る詩人で、今もフランスの書店には堂々と並んでいます。パリの街角の多くの人の心を今も魅了していると思います。実際、パリにいる私の友人のフランス人たちの多くはプレヴェールの詩を愛しています。プレヴェールの詩は、法律や経済や文学あるいは哲学や科学と言った細かいコースの前に位置する何かだと思います。街に広場に人々が繰り出す時、そこにプレヴェールの詩があると言って過言ではないと思います。

  ただ、実際にはプレヴェールの本は大学の4年間に匹敵しません。というか、両者は比べることのできない異なる価値です。プレヴェールの本は、詩を通して社会への、そして自分への「姿勢」を培うものだと思います。何のためにそれらを勉強するのか、ということの前提になる感性が、鋭い言葉で、そこに凝縮されています。社会から自由が奪われそうになる時、庶民の暮らしから詩が失われそうになる時、一度騙されたと思ってプレヴェールの詩を手にしてみてください。岩波文庫からも最近、復刻版が出されたはずです。

www.youtube.com

上はプレヴェールが作詞したシャンソン集。1番手としてジョゼフ・コスマ作曲の「枯葉」をジュレット・グレコが歌っています。

 

www.youtube.com   こちらはジャック・プレヴェールの記録映像