「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

米軍のアフガン撤退のデッドライン バイデン大統領は20年目の9月11日を再提案

 バイデン大統領がアフガニスタンからの米軍撤退のデッドラインを9月11日に据えるとしており、ちょうど2001年9月11日の同時多発テロから20週年の記念日であると声明を発表しました。もうあれから20年も経ったのか、と思います。「ニュースの三角測量」というテーマが生まれたのも、あの事件がきっかけですから、この20年間はまさに私のような東アジアの名もない一民間人の人生まで変える出来事でした。

 この撤退完了の日すなわちデッドラインをめぐり、米国のアフガニスタンの交渉相手であるタリバンとのやりとりをヴォイスオブアメリカ(VOA)が報じています。現在、米兵は2500人と発表されており、これに加えてNATO軍の7000人が駐留しています。

www.voanews.com

  もとになっているのは昨年2月にトランプ政権とタリバンとの間で取り交わされた合意です。その合意で今年の5月1日をもって完全撤退とされていた期日につき、バイデン大統領はもはや不可能とみて9月11日を撤退完了と再提案しています。この完全撤退の期日については米軍およびホワイトハウス内でも議論があり、米軍が撤退した後、タリバンアルカイダグループを引き寄せ、再び反米テロ活動に出ることはないのか、と疑問視する人が少なくありません。これに対してバイデン大統領は20年やってきてできなかったら、これ以上駐留してもできない、と反論しています。タリバンなどのアフガニスタンイスラム軍事勢力が米国に対してテロ行為を再び起こさないのであれば、アフガニスタン国内情勢がどうであれ、米国はもうそれ以上のことはできないとして一線を引くとの声明が9月11日という象徴的なデッドラインの設定でしょう。そもそも、ソ連アフガニスタンから撤退させるために米議会でイスラム軍事勢力へのテコ入れを決定した1970年代の末から米国が行ってきた軍事工作の帰結がこれですので、皮肉な結果です。

www.nytimes.com

  このアフガニスタンにおける米軍の戦争は米史上、最長の戦争だと記されています。アフガニスタンへの戦争を始めた当時のジョージ・W・ブッシュ大統領もまさか20年後になってまで米軍が駐留することになろうとは夢思っていなかったはずです。イラク戦争も初戦は完勝で、楽勝ムードでした。しかし、いざ占領統治となった時、そんな簡単に物事は進まず、ずるずる泥沼に引き込まれてしまいます。私はその頃、米国で出版された歴史学者ジョン・ダワー著「敗北を抱きしめて」が最悪の形で米国のトップレベルの人々を洗脳してしまったのではないかという疑いを持っています。この本は1999年に出版されてベストセラーになっていますから、2001年の時点で政府当局者の心に残っていたと言っても過言ではないでしょう。

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ジョン・ダワー著「敗北を抱きしめて」

  ダワーの本書は敗戦後の日本が米軍にどう統治されたかを記した書で「敗北を抱きしめ」たことが記されています。

  「一九四五年八月、焦土と化した日本に上陸した占領軍兵士がそこに見出したのは、驚くべきことに、敗者の卑屈や憎悪ではなく、平和な世界と改革への希望に満ちた民衆の姿であった…新たに増補された多数の図版と本文があいまって、占領下の複雑な可能性に満ちた空間をヴィジュアルに蘇らせる新版。」(アマゾンに載っている内容紹介)

 当時の日本人が占領統治をおこなったGHQ引いては米国を歓迎していたことをもって、アフガニスタンイラクでも同様の結果を得られるのであろう、という過信が政府当局者の頭の中になかったのでしょうか。米国は第二次大戦中、日本語ができる人材を育成し、日本の歴史、文化、日本人の研究を行って占領政策を立案していました。戦後、日本文学の研究者になったエドワード・サイデンステッカーやドナルド・キーンらは皆、日本統治のための国家プロジェクトの下で育っています。ルース・ベネディクトの「菊と刀」という日本人論も占領政策のために書かれています。異文化の国を占領するにあたって、これだけ日本文化に通じる人材を育成して、用意周到に占領統治を行ない、日本のレジームの転換を実現しています。

 それに比べてみると、アフガニスタンとの戦争であれ、イラクとの戦争であれ、どのような統治を目指すのか、どのようにそれを実現するのか。住民の反発を生まないために何が必要なのか、と言った配慮や思考に乏しかったことが事態の悪化を生んでしまったのではないかと思います。しかも、歴史的にキリスト教徒にとっては十字軍以来の因縁のある世界です。この文化的な占領政策の失敗が、米軍駐留の長期化、泥沼化へと大きく響いていると思います。