「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

アラバマ州のアマゾン倉庫で労組結成の試みは失敗  すでに倉庫の最低賃金は時給15ドル

 nprはアラバマ州で先日行われたアマゾン倉庫内の労働者が労組を結成するかどうかの労働者の投票で否決されたことを報じました。Amazonの労働者については過去に様々な労働環境の悪さが報じられたこともありましたが、労組結成はなぜ否決されたのか。1798票が労組結成に反対で、賛成は738票にとどまりました。

www.npr.org

  まずは給与がすでに最低賃金が時給15ドルに達していることです。最低賃金の15ドルはバイデン大統領が法制化を議会で否決されたばかりです。Amazonは国の政策に先行して最低賃金の15ドル以上を達成したということが何と言っても大きいようです。さらにAmazonは健康保険などもつけています。すでにAmazonは労働者を80万人以上全国で雇用している第二番手の大企業になっており、この投票は米国で最初のケースでそれだけ注目されましたが、他にも各州に倉庫がたくさんあります。

  労組結成に投票での多数決が必要だというのは、日本から見ると驚きです。日本の労働組合法では労働組合には一定の条件が伴うものの、雇用者の一部の少人数でも結成可能です。nprの記事で、ラトガース大学のレヴェッカ・ジバン教授が、米国における労働組合の結成は現在の労働法では厳しいものだ、と語っています。さらにジバン教授は、労働者に労組結成に反対させるメッセージを発信することを経営者に禁止する条項を労働法に盛り込む法改正をバイデン大統領が進める可能性をも示唆しています。記事によると、Amazonの経営側は、Amazonはすでに労働者に必要な待遇は与えていて、労組結成は労働者のためではなく、労組の資金集めに寄与するだけという労組切り崩しのメッセージを出していたと言います。

  先日、ニューヨークタイムズポール・クルーグマンが労組の影響力低下、そして労組の加入率の低下の影響を伝えていたことを書きましたが、そもそもこのAmazonアラバマ州の倉庫の記事を読むと、労組に加入するかどうか云々以前に、労組結成自体に障壁があることがうかがえます。そして、近年、かつての製造業の中心地域であるミシガン州オハイオ州といった地域から、南部に製造業の拠点が移動しつつあるとされますが、その理由の一端は南部では労賃が一般に安いことや、労組結成率が低いことだとされます。アラバマ州も南部で労賃が北部より安い地域ですが、Amazonが独自に実施している最低賃金15ドルは労働者にはかなりインパクトが大きいようです。アラバマ州には州が定める最低賃金はなく、連邦の最低賃金である時給7.25ドルが適用されますから、Amazonの倉庫は最低賃金の約2倍を達成しています。

   ちなみに、以下のCNBCの伝えるAmazonの物流センターの地図(昨年1月の記事)は興味深いものがあります。Amazonは米国内にすでに110か所の拠点を持っていますが、さらに急速に倉庫の数を拡大しています。新規の設置中の倉庫のうち3分の2程度は南部の州にある示されています。数の上でトップは創業の地、カリフォルニア州ですがテキサス州は全州の中で2番目の多さとなっています。前に電気自動車や宇宙産業のTeslaがテキサスに新工場を建設予定であることを書きましたが、Amazonでも今後、倉庫をテキサス州に複数建設予定で南部は今、大きく発展していることがうかがえます。 

www.cnbc.com

 

※州別に見た最低賃金

https://www.dol.gov/agencies/whd/minimum-wage/state

 

※日本の労組法

https://www.mhlw.go.jp/churoi/hourei/kumiaihou.html