「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

米失業率統計からバイデン大統領の米国を見る  新型コロナウイルスで14%超になった失業率は今?

   昨年の大統領選でトランプ大統領の再選を阻んだ最大の要因は新型コロナウイルスの拡大で、しかも大統領が初期にその脅威を知っていながら国民に知らせず、対策も後手にまわり、9月には自身も感染してしまうという判断の甘さにありました。その結果が米国の労働統計の失業率のグラフに如実に示されています。以下の政府統計の折れ線グラフは興味深いものがあります。

https://www.bls.gov/news.release/pdf/empsit.pdf

 ジョージ・W・ブッシュ大統領時代に起きたリーマンショックで、翌年政権を担ったオバマ大統領の初期は失業率9%超から始まりました。その後、大規模な政府予算の放出などで失業率は改善されてゆき、後継のトランプ大統領の時代は2020年2月に失業率が4%未満と賃金の伸びはともかく就労状況はよくなっていました。トランプ大統領もこれで再選できると思っていたはずです。ところ意外にも、新型コロナウイルスの米国での広がりを契機に一気に失業率は14%を超えてしまいました。

(こうなったら、真っ先に解雇されるのは常に黒人ですから、人種間の葛藤が当然高まります。ミネアポリスで白人警官が黒人を圧迫して殺したのはその少し後の2020年5月でした)

 その後、トランプ大統領は再選に向けて懸命に取り組み、失業率もかなり下がってはいきます。現在の失業率は6%(3月下旬の時点)で、2020年2月の4%未満には戻っていません。その乖離は2.5%。ただ、どんなに経済が好調だったとしても4~5%の失業率は常時、存在するものであるとマクロ経済学(※)では教わります。

フィリップス曲線=縦軸にインフレ率(物価上昇率)、横軸に失業率をとってグラフ化すると、一般に失業率とインフレ率はトレードオフの関係になっている。そのため失業率を完全なゼロに近づけようとすると物価上昇率の急増を招いてしまう。そこで物価上昇率が1~2%圏の失業率4~5%程度がむしろ理想と考えられている。財務長官のジャネット・イエレンも以前、そのことに言及している。この物価上昇率は労働者の賃金の上昇率とも深く関係している。

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1960-1969の米国のフィリップス曲線

 では現在の米国の物価上昇率はどうなっているかというと下の統計があります。今年3月の時点で2.6%で、政府の想定圏内よりやや高めになっていると思います。ですから、大規模公共投資で失業率をさらに下げた場合に、インフレが加速するのではないか、という懸念も出ています。

www.bls.gov

 そこで昨年来のグラフを見ると、失業率はすでにかなり改善されたという印象があります。オバマ政権時代の9%超の失業率は金融に端を発する恐慌という面がありましたから、その波及が全産業に及んだと言って過言ではありませんでした。その時の記憶があるものですから、今回の新型コロナウイルスがらみの失業率のグラフを見て最初に感じたのはそのことです。つまり、産業構造的な不況による失業の増大ではないところが回復の速さにつながっているのでしょう。しかも、ワクチン投与も始まっています。

  ちなみに、このグラフは「nonfarm」の失業率の統計となっており、ノンファームとはちょっとわかりづらいのですが、農業従事者や個人世帯の事業者などは含まれていません。たとえば著述家などのフリーランス労働者や自営業者の「失業率」というのが統計が取りにくいからかもしれません。

  失業率が6%まで改善されてきているこのグラフで見ると、バイデン大統領が率いる民主党政権の8年越し、2兆ドルの大型公共投資がむしろ、いささかオーバーな印象がしてきました。というより、これは単なる新型コロナウイルスへの対症療法にはとどまらず、むしろそれとは別の大きな産業構造の改革をしようという意志に感じられます。核になっているのは老朽化が長年指摘されていた全米の道路や水道管などの補修や新設といったインフラ投資や電気自動車のための充電所の50万か所の設置などです。ここにはエネルギー改革という大きな要素が含まれていますし、電気自動車の製造普及で再び世界で主導権を取ろうという意志も見えます。バイデン大統領はこの大型公共投資を通して人種間の格差を縮小し、正規雇用を増やし、労働組合を強化し、それをさらなる民主党の地盤にしようという10年越しの計画であることがうかがえます。というよりはむしろ、1960年代以後の民主党の失墜の原因を除去すべく米民主党が総力を挙げて仕掛けた戦いと言えそうです。その意味では格差の象徴となっている西海岸のIT産業界の大物たちをどこまでオバマ時代にぶちあげたグリーン革命にコミットさせるか、そこをバイデン大統領のチームは飴と鞭を使いながら仕掛けていくのではないかと思います。

  そこで思うのは共和党の拠点、テキサス州アメリカの変化の象徴になりつつあるのではないか、という印象です。これはサンフランシスコの電気自動車会社のテスラが二番目の大工場をこれから新設しますが、それ以外にもやはり西海岸発のAmazonの物流センターが複数新設される予定です。テキサス州に新産業の拠点が集まりつつあります。テキサス州は10年くらい前ならむしろ、シェールガスシェールオイルという新型の化石燃料の掘削で世界の話題を集め、サウジアラビアを抜いて世界最大の埋蔵を誇ると伝えられましたが、地球温暖化インパクトが次第に無視できなくなってきています。私はシェールガスシェールオイルの掘削現場の取材でテキサス州を2013年に回ったことがありますが、各地で中東の油田のようなパイプから火が噴き上げている光景を見たものでした。それが今は電気自動車の製造拠点になろうとしているのです。アメリカの保守的な石油産業と西海岸発の新興IT産業がテキサス州でどうぶつかるのか。さらに、これに中国がどう関わってくるのか、これからますます興味を呼びます。