「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

山口定著「ファシズム」  ナチス研究者と冷戦終結後

 私は大学時代に政治にも経済にも興味を持てず、映画ばかり見ていたと先ほど書きましたが、卒業するために一定の講義に出なくてはならなかったのも確かです。政治学で受けた講義の中に、山口定教授の「欧州政治史」もありました。私のような学生に教えるとは教授も豚に真珠みたいなものだったでしょうが、私が山口教授の著書を熱心に読んだのも卒業してずっと後のことでした。山口教授の専門は欧州政治の中でもナチスドイツの歴史とその後のネオナチ運動でした。著書も多数に及んでいます。「ファシズム」も素晴らしい一冊だと思います。当時はベルリン自由大学の教授でもありました。

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山口定著「ファシズム

  私が残念に思うのは山口教授は1990年代に入って、極右運動の研究に一定の終止符を置いたらしいことです。近くにいたわけではないので確かなことはわかりませんが、冷戦終結の頃、もうナチズムの研究もやれるだけのことはやった的な思いをあとがき等で書いています。立命館大学に移ったのを機に今後は政策論をやるつもりだ、と。ですので、今日の極右の台頭を予測されていなかったのではないかと思えるのです。1990年当時はフランシス・フクヤマの「歴史の終焉?」と言った本が世界を席巻していた時でした。つまり、政治学者であっても、冷戦終結後の世界が具体的にイメージできていなかったのではないでしょうか。賃金の低迷、雇用の不安定化、グローバリゼーション、さらに欧州ではEUの確立など、1990年代以前と以後では世界は決定的に変化してしまっています。

  ですから、言葉は悪いのですが、山口教授の研究がナチスドイツのデテールに詳しければ詳しいだけ、ナチオタクだったのでは?という風な目で私は批判的に見始めたこともあります。もちろん、それはきっと不当な批判なのだろうと思います。しかし、1990年代以後の流れを顧みると、昭和の戦後の繁栄と裏腹な事態が次々と起きたことが思い当ります。歴史の終わりがこんなものでよいはずはありません。私の1980年代の学生時代に喧伝されていた未来とは真逆な未来が待ち受けていました。この「?!」という思いが私の調べ物の基盤となっています。冷戦終結後の先進諸国の極右運動を研究してみれば、今の時代を見る1つの視点を得られるのではないかと私は予感しています。