ニューヨークタイムズのBret Stephensによるコラム「アフガン撤退は歴史的な誤り」を興味深く読みました。この意見に賛成したわけではありませんが、このコラムが言及していることの広がりを感じることになったからです。ここではバイデン大統領が9月11日を期日に米軍をアフガニスタンから完全撤退すると、再びタリバン支配を認め、その結果、20年間で少しずつ獲得した女性が学ぶ権利などもすべて放棄せざるを得なくなるだろうと警告しています。
このコラムを今、欧州や北米で広がりつつあるオルタナ右翼との関連で読んでいくと、いろいろ考えさせられます。欧米諸国の極右の人々は私たちのテリトリーにイスラム原理主義は入ってくるなと言っているのですが、一方で、中東やアフリカでイスラム原理主義勢力に軍事占領された地域をこれまで欧米諸国は軍事作戦で討伐してきました。欧米の人にとってはイスラム原理主義は歴史の進歩から遅れた甚だしい教義となるでしょうが、それを信奉している人々から見ると、まったく逆の視点もあり得ます。
アラブの春が始まった時、サルコジ大統領もそれに便乗して政治的スキャンダルの共犯者であるリビアのカダフィを討伐してしまいましたが、建前はリビアの民主化であり、反政府勢力へのテコ入れでした。国連で禁止されていたにも関わらず一方に軍事的に加担してしまったのです。この時、極右の国民戦線(当時)党首になったばかりのマリーヌ・ルペンはサルコジのリビア軍事介入を批判していました。イスラム原理主義討伐をすると、結局、フランスが返り血を浴びると言っていて、先代の父ルペンとともにサルコジ大統領を強く批判していたのです。そして、この頃が分岐点となってマリーヌ・ルペンの支持者が激増していきました。とはいえ、マリーヌ・ルペン自身は必ずしもイスラム原理主義勢力一般への軍事介入自体については一義的に否定しているわけではないようです。
アフガニスタン、イラク、そしてシリア。いずれも現地の政治的対立に欧米諸国が金や武器を投与した結果、惨禍が桁違いに拡大しています。欧米が難民を創り出していると言っても過言ではありません。「アラブの春」に関して言えば、発端にヒラリー・クリントンが率いる米国務省によるデジタル機器を用いた民主化作戦があったことが伝えられています。これが欧州連合に難民が流入する1つの元凶となっており(そればかりではないとしても)、このことを忘れて欧州連合加盟国の人々は政治判断をすべきではないでしょう。これは最近の事情ですが、それ以前に約500年に渡る植民地地域からの経済的収奪で蓄えた富の分け前の問題もあります。こうなると問題が複雑になりますが、しかし、問題の複雑さを無理やりに単純化しないことが大切だと思います。こうしたテーマを扱う時に、錯綜する現実を錯綜するままに提示しながら、その全容の姿をシンボリックに見せてしまうメキシコの映画監督、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥのモンタージュは有効だと思います。
以下はフランスの兵器輸出額の推移で、2012年のオランド大統領以後、ほぼ年々増え続けています。オランド大統領の時代にアラブの春が起こり、それもあってリビアやシリア、アフガニスタンなどで軍事介入をフランス軍は行いました。それに伴うように兵器輸出額はぐんぐん増えていきますが、この当時、オランド大統領が欧州経済危機から抜け出し、10%に及ぶ失業率を下げるべく懸命になっていたことを思い出します。オランド大統領は再選の条件として10%以下を自ら掲げていたのです。
このデータの源はSIPRI=ストックホルム国際平和研究財団で、2010年代のフランスの兵器輸出の突出した伸び率=72%のインパクトは様々な形で記事に取り上げられています。下のForbesの記事もそうです。アメリカなど比較にならない突出した数字です。
フランスは米国と同様に軍産複合体に依存する経済構造になりつつあるのかなという印象を持ちました。ということは海外で戦争することと切り離せなくなり、その結果、ますます難民が押し寄せ、極右の台頭を招く。その結果、さらに軍事介入を重ね、さらに・・・・というスパイラルになっていきます。