「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

TV業界歴25年超の私がYouTubeチャンネルを立ち上げて気づいたこと

 私はTV業界に入ったのは1992年ですので(ディレクターになったのが1994年頃でした)、業界歴は29年になります。その私が今年初めて、YouTubeチャンネルを立ち上げてみました。やってみると、いろんなことを体験します。30年近い歳月で、体験しなかったこと、気がつかなかったこと、反省させられたことなど、わずか2か月ほどに濃密に意識することになりました。

  私が手がけているのは「フランスを読む」というチャンネルです。これはフランスの書籍を中心に日仏間の文化について翻訳家や大学教授、哲学者などが1冊10分毎回語るというミニ番組です。この世界では著名な方々に幸運にもご参加いただいています。ただ、以下は番組の出演者や内容のことではなく、ハード面のことを書きます。

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  やってみて、まず腹が立つのはYouTubeチャンネルの私どもの映像の脇に他の人たちが作成した映像がずらっと並ぶわけですが、アクセス数が100万回とか、1000万回とか、そんなのばかりなぜか並ぶわけです。YouTubeチャンネルの中でそれらは大ヒットの部類だと思います。そうではない映像の方が圧倒的多数なはず。それなのに、なぜそれら大ヒット映像ばかり並ぶのだろうなあ、と思いました。私どものチャンネルは立ち上げたばかりと言うこともあるでしょうが、アクセス数は目下100~300の間位です。内容については悪くないと自分では思っています。ただ演出とか録音や撮影技術的にはまだまだ工夫しどころがあるとか思ってはいますが。それにしても、このアルゴリズムです。いったいYouTubeは私たちを凹ませてやめさせたいのか?と思うほどです。トラのお母さんが我が子を鍛えるべく、崖から突き落としているかのようです。

  さて、機材について。チャンネルを立ち上げるにあたって、それまでプロダクションとか放送局の仕事で使っていた機材は使えませんので、自分でカメラや外付けマイクを調達することになるわけですが、ポケットマネーということで予算が限られていますので、どのメーカーのどの機種にすべきか、結構悩みました。周りの同業者の方々に方々電話したりメールで問い合わせたりしてアドバイスをいただきました。家電量販店のカメラ売り場の担当者にもよく話を聞きました。その中で最終的にSonyのブログカムというブログ用に特化したビデオカメラにするか、Sonyが伝統的に開発してきたハンディカムFDR-AX系にするか迷いました。こんなことも以前なら、さして身近なテーマではありませんでした。外付けマイクも、メーカーはどこにするか、指向性はどの程度絞るべきか。話し手は一人だけか、複数か、などなどで選択肢が変わってきます。

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  私は最終的にカメラはSonyのFDRーAX系を選びましたが、その理由はブログ以外にも短編映画やドキュメンタリーも撮影したいと思ったからで、そうなったら普通のビデオカメラの形態で、バッテリーも持ちが良い方がいいなと思ったのです。映画会社の友人がブログカムとFDR-AX系のそれぞれの良しあしの比較表を作成してくれたのには感動しました。ブログカムだったらもう少しコストを下げられたのですが、私は予定より10万円予算を積んでも普通のビデオカメラを最終的に選んだことになります。ブログカムはブログに特化するだけなら、価格は安価で、しかも明るい映像が撮影出来ていろいろ工夫はなされているのですから、本当にぎりぎりまで悩みました。

 YouTubeチャンネルを立ち上げるのと期を同じくして、Adobeの映像編集ソフトPremiere Proやその他のソフト一式も導入しました。まだ十分に使いこなしていませんが、操作が分かり次第、実戦に投入したいと思っています。こういう機材やソフトの調達およびそのための資金の積み立てで、コツコツ貯金しながら、準備に半年以上かかってしまいました。Premiere Proは月々の徴収方式ですが、私は1年一括のコンビニ払いを選びました。Premiere Proを始めると、Illustratorとか、Photoshopとか、In Designなど、これまた今まで無縁できたソフトにも足を踏み入れることになりました。こういうプロセスをやりながら、今までの生活と日常に触れる情報が大きく変化してきました。老いては子に従えと言いますが、今回導入したマウスパソコンについて初めて教えてくれたのも日本テレビの仕事をしている若いスタッフでした。しかし、世代間の公平を期するために書きますが、わたしと同年配だというある制作会社のデジタル技術に強い社長も私のために一肌脱いで、Premiere Proを装填するにあたって必要なパソコンのスペックの情報をメモリやCPU、グラフィックボードごとに必要最小限の数値をメールに詳細に書いて教えてくださったのです。これは役に立ったばかりでなく、パソコンとは何かを考える大きな手がかりにもなりました。この方は1995年にマイクロソフトがウィンドウズPCを日本で売り出した時に徹夜で店に並んだとかいう方で、新しい技術を常に導入してきたそうです。まあ、私とは真逆ですね。

  さて、以上書きましたように、それまでなら撮影とか、編集とか、専門職の人々に分担していただいたところも予算ナシでスタートしたYouTubeチャンネルでは自分でやらないといけません。映像の色温度とか色相といったことや、音楽をどこで調達するかなども自分の手を使って作業することになります。これは大きな業務上の変化でした。というより、それまで30年近くTVの仕事をしていながら、自分の担当しない部分については専門職の人たちに丸投げで、技術的な知識も乏しかったことがわかりました。逆に言えば、改めて(老いたる)新人として貪欲に学んでいるところです。それまでデジタル機器というと苦手意識が先立っていましたが、今は次第に面白くなりつつあります。総じて、今まで技術を軽視していたのだと思いました。

  一番、驚いたのは自分の呼吸音が最初は映像に思った以上に入っていたことで、これは最初外付けマイクをしようしなかったからでした。内臓マイクはカメラの上の面にあるので、近くの撮影者の呼吸音は入り易いことに気づきました。しかも、マスクをしているために息苦しくて、一層その音が雑音として記録されやすいのです。そういうわけで以後、外付けマイクを使い始めました。しかし、音声ではまだまだ課題があると感じています。

  2015年あたり、安倍政権が安保法制を国会で進めていた頃、大きな抗議デモが国会周辺その他であり、若い人たちや一般市民の方々が映像をYouTubeによくアップしていました。中にはプロもいたでしょうが、私の見るところ、メディア業界人ではない人の方が積極的にビデオを回して、YouTubeなどのSNSを積極活用していたように思います。たとえば後に国会パブリックビューイングという国会をウォッチする市民運動が起こりますが、その映像面の技術を担当していた人は生協の職員の人で、メディア業界人ではありませんでした。そういう人が津々浦々の地方都市の人々にも、国会映像の使い方の講習をしていたのです。

 考えてみると、映像業界の人々は、デモ自体にもあまり関心を示さなかったように感じていますが、さらに映像記録の公開にはもっと積極性が乏しかったのではないかと思います。かといって、TVでそれを取り上げていたのでもなかったと思えるのです。この理由はなぜなのか、というのはその頃、私の中で大きな疑問として残りました。何より私自身を振り返ってみても、自分で映像にしてYouTubeにあげたことはありませんでした。何もデモに限らずとも、いろんな分野でもプロは予想以上にSNSに映像を上げることには消極的なのではないでしょうか。

 私のケースは先述の通り、ディレクターという役職で、実際に手を使った撮影や編集などの作業は専門職の人々に委ねることが多かったという経緯があります。また、どうやったらSNSに映像をUPできるかも真剣に学ぼうとしたこともありませんでした。今はスマホで簡単に映像が撮影出来て、ボタン1つでSNSにあげることができます。映像は「カメラ=万年筆」説通り、もう万人のツールと化しました。そして、助手的経験を経ない若者たちが新しい映像を創り出しつつあります。そんな中で、今更ながら、私は大海をバタ足で泳いでいるような気がします。