「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

英国の極右活動家たち  収監されても運動を継続

 英国が欧州連合を離脱するかどうかを決める投票は通称・ブレグジット国民投票と呼ばれ、2016年に行われました。この時、欧州連合にいれば難民・移民が続々と流入してくるという極右やナショナリストの訴えが功を奏し、離脱が決定しました。その後、英国の極右はどうなっているのだろうと思うと、通称トミー・ロビンソン(Tommy Robinson)という名前の反ムスリムの極右活動家がリーダーになっているらしいことを知りました。English Defence Leagueというナショナリスト団体の創設者だそうです。米国の富裕層も資金援助をしているとニューヨークタイムズに書かれています。それらはトランプ支持者と重なるところがあるとされますが、トランプ政権が終わって、資金が滞るとモスクワ詣でを始めたとも書かれています。ロシア人がなぜ英国の極右に金を出すのかと言えば欧米の民主主義に揺さぶりをかけたいからだとニューヨークタイムズでは書かれていました。そういえばフランスの極右政党、国民連合もロシアと良好な関係を築いています。

U.K. Far Right, Lifted by Trump, Now Turns to Russia

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  こちら(↓)はブレグジット国民投票の前年のトミー・ロビンソンの演説です。オックスフォードユニオンはオックスフォード大学にある学生の弁論団体です。200年の歴史を持っています。英国は階級社会と言われ、映画「マイフェアレディ」でもおなじみのように貴族階級の末裔やエリート階級と、労働者階級では話す言葉も違っていました。「マイフェアレディ」は大学の言語学の教授が下町言葉を話す下町の娘を教育して上流階級が使う英語を発音から徹底訓練する話です。トミー・ロビンソンの演説も、服装はびしっと決めていますが、英国映画でおなじみの労働者の話し方のように聞こえます。英国エリートの首相たちの演説と聞き比べると言葉の違いがよくわかります。日本も今、急速に階級社会化が進み、やがて言葉ではっきりと違いが出てくるかもしれません。欧州の「文化資本」という言葉が示しているように文化的蓄積やセンスはお金以上に成功に必要な資本となっています。階級差が生まれれば生まれるほど文化資本の差は拡大します。その結果として、極右や極左では「反エリート」という発想が政治の右左とは別に強まっていきます。こうした極右と極左のカリスマ的政治家たちは左右を問わず、「ポピュリズム」の政治家と呼ばれていますが、「ポピュリズム」という言葉を好んで使う人々はエリート階級(の子弟)と見て間違いがないと思います。

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  オックスフォードユニオンでは2018年にトランプ政権の首席戦略官だったスティーブ・バノンも招かれて演説をしています。バノンはオルタナ右翼のメディア「ブライト・バートニュース」を設立した人物でもあります。すでにこの時はトランプ政権から外れた立場です。ちなみに、バノンはハーバード大学で学んだエリートですし、彼と組んだトランプ元大統領もウォートンスクールというエリートのビジネススクールの出身です。労働者階級出身の右翼とは違った出自を持っています。そういうところが同じ極右でどんなに過激な発言をしたとしても、トミー・ロビンソンのように刑務所に入れられることがないバックグラウンドかなと思います。

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  ブレグジット国民投票については、右翼や極右だけでなく、左派の人々も少なからず離脱に賛成票を入れたと聞きます。これは欧州連合が理想とは裏腹な、単なるグローバル市場でしかない、という幻滅からでした。右と左の間に、グローバル化経済への危機感があり、経済政策に関する限りでは、両者は近づいている面があるのです。そして、そこに反エリート、反エスタブリッシュメントという点も共通項に入ってきたように思います。敵の敵は味方だ、という考え方がありますが、両者はエリートから敵視されることで一致しています。フランスの2017年のW選挙でもマリーヌ・ルペンが大統領になったら、という過程でリアルなタッチで描かれた漫画(BD)「女性大統領」が選挙前に売り出されましたが、反ユーロを掲げて経済を混乱させる様が描かれていました。しかし、このBDはやはり欧州連合に懐疑的な極左政党の「服従しないフランス」のジャン=リュク・メランション候補にも当てはまる内容だったのが印象的でした。その意味で政治家たちが提携しなかったとしても支持者の有権者極左と極右で回遊する可能性があると思います。フランスのケースで言えば極右大統領が誕生する機運が高まっていることを意味します。今、世論調査で2022年の1回目投票で誰に入れるかと聞くと、トップをマリーヌ・ルペンが走っており、1%くらいの僅差でマクロンが2位につけています。3位は右派の共和党で、極左のメランションは4位です。社会党は5位です。ここまでの展開は2017年とよく似ています。左派の共同戦線は今もってできていません。そこで問題は2回目の決選投票です。もし、極左政党の把握力が何かのスキャンダルなどで崩れると、一気にランドスライドで極右に票が集まる可能性があると思うのです。左派の連携ではなく、反エスタブリッシュメント、反欧州連合を軸とした極左と極右の有権者間の連携です。エリートと庶民の感情的な対立が深まれば深まるほどその可能性は高まるでしょう。米国では2016年の大統領選挙でこれが表面化しましたが、2020年の選挙で民主党はその失敗を克服しました。フランスの2022年がどうなるかが注目です。

  ナチス台頭中のドイツを舞台にした映画「キャバレー」の原作はクリストファー・イシャーウッドの小説「私はカメラ」で、当時のドイツに滞在した人物の経験が背景にあります。この映画の中で、富裕な貴族は「私たちは極右をコントロールできる」と言っています。共産党社会民主党を始末するために極右に資金を与えながら、自分たちの好きな政治を実現するのだと言うのですが、やがてナチズムに火がついてコントロール不能な状態になっていく様が描かれています。英国でも2016年のブレグジット国民投票を提案したのは保守党のデビッド・キャメロン首相でしたが、狙いは「離脱の是非を問う国民投票」をちらつかせて欧州連合に英国の掲げる新自由主義的改革の要求を呑ませることにありました。キャメロン首相はまさか英国民が本当に離脱の意志を示すとは見ていなかったのです。しかし、蓋を開けてみると、極右と極左の両極が反欧州連合で一致して「ノー」を突き付けました。これによって、金融街のシティは戦略変化を迫られることになったのは記憶に新しいところです。