「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

イスラエルのウルトラオーソドックスたちの実像  フランスの女性ディレクターの鋭い仕事ぶり

 イスラエルのウルトラオーソドックス(Haredi Judaismと呼ばれるユダヤ教徒の中でも最も戒律の厳しい原理主義的なグループ)のたちの生活の内側に切り込んだルポルタージュが以下の番組です。フランスの「調査(報道)」という番組シリーズで特集タイトルは「ウルトラオーソドックスの圧力がかかるイスラエル」(2016)で、CANAL+という放送局によります。ディレクターは女性で、ベスサベエ・ザルカ(Bethsabée Zarka)という名前。男尊女卑的な空気の中で、宗教者たちに時に無視されながらもよく取材し、切り込んでいてとても素晴らしいと思いました。ウルトラオーソドックスの暮らす閉鎖的な一角に取材で入る前に、ディレクターの女性がまずウルトラオーソドックスに詳しいイスラエルとフランスの二重国籍の女性ジャーナリストに会って、一角に入るために必要な黒字の地味な服装を買い整えるところから取材が始まっていきます。住民はロシアや東欧で横行したポグロムという虐殺を逃れて、この町にやってきた人々の子孫だと言います。最初はここで撮影はするな、と脅されたり、取材協力者を探すために時間がかかったりしながらも彼女は粘り強く取材を進めていきます。

  イスラエルのウルトラオーソドックスの人口は国民の10%以上に達するそうで、彼らは仕事をせず、祈りに専念。仕事は女性がやっています。ウルトラオーソドックスは家族法の分野を支配し、結婚や離婚に強い影響力を与えているとされます。そして、ウルトラオーソドックスの家庭に生まれた男子はまっとうな教育というか、普通の家の子弟が受ける義務教育を免除されていて、ひたすら宗教教育のみ。冒頭のシーンでは兵役も免除せよというデモを行っています。信者たちはテレビやインターネットは使用禁止。携帯電話すら地区の宗教指導者であるラビの許可制です。取材を受けてくれた家族の夫は、ウルトラオーソドックスの理解しがたい生活ぶりながら、憎めない人柄で誠実に取材を受けており、ディレクターもまた決して敵意で撮影しているわけではないことがわかります。どんな取材であろうとも、相手を人間として理解しようとして誠意を示す、こういう取材の姿勢は大切ですね。イスラエル人の町にも世俗主義の人々の暮らす地域と、ウルトラオーソドックスの人々が暮らす地域とがあるようです。

 このウルトラオーソドックスが極右勢力としてネタニヤフ首相らを応援している構図になっています。ウルトラオーソドックスは国からかなりの支援金を得ていて、それで生計を立てつつ、シャバットと呼ばれる安息日(金曜の夕方から土曜の夕方まで)は仕事をしてはならないため、ウルトラオーソドックスたちが商店街などを練り歩き、ラッパを吹いては仕事をやめよ、と戒めて回るくだりは、デジャビュ感がありました。それはダエシュ(イスラム国)のイスラム原理主義武装勢力の人々で、どうしても宗教こそ違えど、原理主義者たちはよく似ているんですね。前にニューヨークタイムズの二コラ・クリストフがコラムでイスラエルの病理として書いていたことが<いやはや、本当なんだ!>と実感できました。

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  このドキュメンタリーの中で、ウルトラオーソドックスをやめた若者が出てきますが、彼をよく取材して本音を引きだしたなと思いました。いずれにしても、今日のイスラエル社会の一面が実によく見える取材です。もちろん、これがイスラエルのすべてを語るわけではないのですが、イスラエルの異常さの象徴を見た気がしました。つまり、宗教原理主義が度を超えていて、民主主義を脅かしているのがこれから見て取れます。私もこの番組に一度、取材企画を出してみたいと思います。

  フランスで今、イスラム原理主義の浸透を防ぐために新法を制定した内務大臣が書いた本が反ユダヤ主義と批判されました。いくらかのユダヤ系の移民がナポレオンの時代に独自の生活や職業から、国家統合上の問題を起こしていたと書いていた個所です。この番組もフランスで放送される番組です。こうしたテーマはニュースの三角測量ではありませんが、場所を変えていろんな角度から検討することで多角的に見えてくるものがあります。