「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

21世紀は哲学の重要性が20世紀より格段に高まる

 私は21世紀は「哲学の世紀」になると思ってきました。いつごろからかと言えば20年くらい前からです。つまり、21世紀に入ってすぐから。こう考える理由は、21世紀は科学とテクノロジーが格段に進化し、20世紀には予想もしなかった世界に人類が突入することです。寿命が延びることで、安楽死の議論も増えてきましたし、出産前の診断で赤ちゃんの健康状態がわかるようになると、産むか産まないかにも判断材料となってきています。さらに赤ちゃん自体も様々な遺伝子操作ができる時代になりました。原子力発電の是非も問われています。直接、私にこの問題意識を与えたのはその頃読んだドイツの哲学者ハーバーマスが書いた「人間の将来とバイオエシックス」という本でした。

 テクノロジーがこうした段階に突入した時、私たちの社会がそのテクノロジーをどう制御するかが、問われることになります。こうした課題に民族や国境を越えて、ものを考える共通の基盤を与えるものが哲学です。ですから、哲学の素養のある人とない人で、今後は課題対処力に大きな差がついてくるはずです。シンポジウムや記事に触れても、議論の進め方や論理の基礎、あるいは哲学史倫理学史の知識がないと理解することが格段に難しくなるのではないかと思います。私は門外漢であっただけに、少しずつでも近づく努力をしてきました。科学技術をコツコツ高めるのはむしろ楽で、それを使わない、あるいは制御するのははるかに難しいことです。

  フランスでは高校や大学で哲学を教授できる資格を得るにはとても厳しいアグレガシオンという試験を通らなくてはなりません。哲学者の知人によりますと、西欧の哲学の歴史~あらゆる学派~を学ばないといけなくて、口頭試問も課せられるとのことです。あらゆる学派を学ぶ理由は、もちろん哲学のプロにそれが求められるからに他なりませんが、そのことは人間が考えるという営みを、あらゆる形において理解する、ということでもあります。それは生まれながらにはぐくまれた家族や地域、民族や国家ベースの狭いものの考え方にとどまらず、異質な文化をも理解する視野の広い思考を促すことにもつながるでしょう。つまり、仲間内だけで「いいね」でつながる共感の輪とは異なる基盤が必要になります。いいねマークがもし1933年のドイツにあったなら、ナチスにいいねマークが何百万と集まったはずです。哲学はそれとは異なる営みです。「いいね」マークをことさら無視するわけではありませんが、しかし、「いいね」などに決して精神が制圧されてはならないのです。

 では、その哲学とメディアがどうつながるのか、ということになると、私の実業上の切実かつリアルな課題になります。哲学なんかでいったい飯が食えるのか?とは伝統的な問いかけです。しかし、哲学を知識の詰込みではなく、正しい考え方の導き出し方であると、考えたなら、かなりビジネスに近づくでしょう。正しい考え方ができないために信用を失ったり、倒産したり、粉飾を行なったり、過労死や一家離散、さらには自殺したりノイローゼになったり、巨大な事故を起こして生命や暮らしを破壊してしまったりすることが起きます。人類は知識や技術を積み上げてきたのに、今更にして、この阿鼻叫喚の地獄のような叫びは何に由来するのですか?

 21世紀なると、技術が進化するだけに災禍の規模もけた違いになります。福島原発事故は2011年に起きましたが今も数万人が元の住まいに戻れず、汚染水は今も太平洋に垂れ流されて汚染を拡散しています。そのことを考えると、日本における哲学の伸びしろは欧米の比較ではありません。日本の首相を見てください。世界のトップリーダーたちの前で語るべき内容は皆無です。日本の首相のメッセージが欧米のメディアで取り上げられることは今日ではまずありません。韓国や中国などの方がはるかに注目を集めています。ですから哲学には今後、莫大な需要が生まれる余地があるのですが、幸いなことにその可能性の広がりを理解する同業者は1%くらいしか未だにいないのです。だから、その領域は1つのチャンスだと見ているのです。映像で何ができるかと言えば、問題の効果的な提示やその問題の国境を越えた共有と克服という課題に役立てることができるのではないでしょうか。つまりはメディアという言葉と同語反復になりますが、コミュニケーションを担う役割を持ちえるはずです。では、皆さん、読んで得したと万一でも思われたなら、下の「☆+マーク」を押していただけましたら幸いです。

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マチュー・ポット=ボンヌヴィル著「もう一度・・・やり直しのための思索」