「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

ポルノ映画担当刑事とキネマ旬報

  今の若い映画ファンは知らないでしょうが、映画情報誌のキネマ旬報は昭和時代にちょっと変わった連載がありました。それはポルノ映画の裁判の裁判所の観戦記事なのです。前に書きましたが、1991年にヘアヌードが刑法のわいせつ罪の対象を外されたことで以後はポルノが映画館を離れ、アダルトビデオというDVDという形で大量に消費され、男たちの夜ごとのおかずとなりました。

  しかし、昭和時代は(平成になるのは1989年です)ポルノは未だ映画館でしか見ることのできないもので、ポルノだと言ってもかつて映画が銀幕と呼ばれたように特別な商品で、スーパーの肉や魚、冷凍食品などとは異なる産物でした。ポルノ映画は基本的に映倫という業界組織の認可を受けて上映されるのが普通でした。しかし、それでもわいせつと見なされて刑事告発されるものがありました。有名な事件の1つに「黒い雪事件」というのがあります。1965年に武智鉄二監督が撮影した「黒い雪」という映画がわいせつ罪で刑事告発されたのです。以下はウィキペディアの記載ですが、検察官は以下のようなカットを問題としたのです。

 

<検察官の公訴事実によれば、『黒い雪』の映像中、

  1. 売春宿の一室で、裸の黒人兵と売春婦ユリとが同きんする場面
  2. 売春宿の一室で、外国人の男が売春婦となった皆子の水揚げを行う場面
  3. 映画館内の客席において、次郎が静江の下半身に手をふれ、静江が目をとじ、首を左右に振りながら、長くあえぎもだえる場面
  4. 売春宿の一室で、次郎の友人黒瀬に犯された静江が半狂乱となり、全裸のままで戸外に飛び出し、基地周辺を走る場面
  5. 次郎、黒瀬、山脇の三人の男が次郎の叔母由美の経営するバーを襲って、同女を犯す場面
  6. 売春宿の一室で、売春婦英子が次郎に乳首を吸わせる場面

などが、問題となるわいせつなシーンとして挙げられた。>

 

 この裁判は結局、監督と日活は映倫を通過していたし、犯意がないということで無罪となったとされています。かつてのキネマ旬報にはこうしたわいせつ裁判の記事がシリーズとして掲載され、他では見られない独特の媒体となってました。

 私はこの警視庁のわいせつ担当の刑事はどんな人たちだったのだろう、と関心を覚えて映画にできないかと思ったことすらありました。ポルノを前にして、男として持つ欲望を凍結して、冷静にノートにわいせつなシーンをこまごま具体的に記載していく作業、というのがとても興味深く思われたのです。キネマ旬報の記事の中でも、裁判で検察官が登場して、問題のカットを言葉で語るのですが、上のようなものを恐らくノートを見ながら指摘していくのです。で、どこがどんな理由でわいせつなのかを裁判長に説明するのです。

 前にも書きましたが、長期不況に転じる1991年に警視庁、警察庁法務省ヘアヌードを解禁します。それによってポルノ量産時代に突入します。そうなったら、いちいち刑事たちもすべての制作物に目を通すことなど不可能でしょう。大学の刑法学ではわいせつ性の基準は時代によって異なり、変化するものであるので、こまごまとした違法の基準は刑法には記されていないと教わります。

 作家の開高健吉行淳之介の対談だったと思いますが、ポーランドか東独の旧社会主義政権時代に作られたアンダーグラウンドのポルノ映画で、貧しい一室のベッドの前の壁にレーニンの肖像写真が大きく飾られていて、そこに「×」印がつけられていた。裸の男女は肖像写真の前で性交にひたすら燃える、という映画を見たという記載がありました。これは一見、ポルノだけれども、全体主義へのレジスタンス映画でもあるというのです。

 昭和時代と今日を比較すると、ポルノは今日ではアダルトビデオの大量生産によって日々消化される「おかず」と化していて、性と政治あるいは性と経済を結びつけて思想的な面から語るということが極めて稀になり、両者はあたかも全然無縁のジャンルであるかのようになっています。ポルノが日常的に毎晩食べられる安くて美味しいおかずになったら、思想的な意味では危なくない、ということになるのでしょう。

 

 ※わいせつ関係ではかつてとは違った現場が生まれてきているようです。インターネット時代では個人が知らず知らずのうちに制作者・頒布者になってしまう時代を示しているのでしょう。

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