「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

我々はどこへ行くのか? 不可避的にIT産業へ

  私はテクノロジーに弱く、IT技術の習得も遅かったのですが、ようやくここに来て・・・。最近、IT産業や新しい経済に関するビジネス書の類をブックオフで買いためてまとめ読みしています。「FREE ~<無料>からお金を生みだす新戦略~」もそんな一冊で、「ロングテールの法則」を提唱したクリス・アンダーソンが著者です。「ロングテール」というインターネットにおける売り上げの特徴を彼が語ったのは2004年のことで、17年も前のことです。世の中はアメリカ発の文化や経済が日本に導入される段階で時間差があり、その日本でもいち早く導入する人と、私のように石橋を叩いてもなかなか渡らないタイプの臆病者との間で時差があり、それが17年くらいです。以下はTEDというトーク集会でクリス・アンダーソンが「ロングテールの法則」を語った時の録画です。

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  もう17年も前の概念ですし、「FREE」=無料のコンテンツが世界を席巻していく現象もすでに現実に広範に起きています。ですから、「FREE」を読んだときも現象自体はすっかりおなじみになっていてさして驚きはすでになかったのですが、むしろ、アメリカの「ワイアード」という媒体の編集長としてのクリス・アンダーソンの頭脳に感銘を受けました。現象がなぜ起きているかを語る説明の仕方がブリリアントとしか言いようがありません。とにかく、視野が広く、歴史から、科学的に分析してクリアに意味を見つけていくのが実に優れています。ジャーナリズムをカリフォルニア大学バークレー校で学ぶ前に物理学や量子力学などを学んでいるのですね。そこが視野の広さなのでしょう。

  以下はTalk at Googleにおけるクリス・アンダーソンの講演です。題目は「新しい産業革命」。会場でパスタを食べているお客さん (グーグル社員か)もいるんですねえ。

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 私がこうした講演を聞くのも、長期的なトレンドを知りたいと思うからです。長期的な視点を持っておく方が、短期的なテーマや活動方針を決める時も誤りを減らせると思うからです。ニューヨークタイムズやルモンドなどを金を払って、外国語で面倒でも読み続けるのも語学を勉強するためではなく、未来を見るためです。といってもすでに17年も遅れているのに何を言う?と思われるでしょう。なるほどです。自分でも今頃、IT産業に参入するみたいなことを言っている自分に呆れています。

  「FREE」では文化人類学で出てくる「贈与経済」について触れられていて、私はこれが今後、ますますキーワードになるのではないかと感じています。AIロボットの大量導入や格差の拡大は不可避的に経済を変え、社会を変えていくに違いありません。その意味で私の関心は世界の行く末を見る意味で、途上国よりもテクノロジーの先端国としての米国に軸があります。米国が好きであろうとなかろうと、米国をウォッチしていないと先行きは見えないのです。

  私は今回、クリス・アンダーソンだけでなく、過去20年くらいのIT関連の新産業に関する先端の開拓者たちの書いたものをまとめ読みしてわかったのですが、日本では実に多くの人がそうした概念や思想を最初に考えたと思われる人々に言及せず、あたかも自分が最初に考えたかのようにブログやツイッターなどで<いただきで>書いているのではないか、という印象を受けました。ほんのちょっと著者なり開拓者なりに言及する習慣が日本では乏しいのではないか、と。そのことが日本が知識に金を払わない、情報産業化の世界で衰退している理由ではないかと私には感じられました。日本人には中国人を批判する資格はないと思えますね。