「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

2025年にルペン、トランプ、安倍の右翼同盟の可能性は・・・

 安倍前首相が人気低迷の菅首相の後継政権を狙って、再び動き出したと新聞各紙が連休中に報じています。安倍首相に抵抗してきた人々にとっては昨年9月に退陣したことでほっとして、1つの時代が終わって気持ちも整理をつけた人が少なくないのではないでしょうか。菅首相では衆参両院で3分の2を支配することはできそうにないからです。しかし、皮肉にもその菅首相のカリスマのなさが再び安倍首相の台頭を許す要因となっています。

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 私は「もう一度・・・やり直しのための思索」というフランス哲学者のエッセイの翻訳を昨年出したように、日本人はもっとしぶとくやりぬくことを学ぶべきだと思ってきましたが、皮肉にも極右の安倍首相ぐらいその道を歩いている人もいません。さらに米国でも昨年の選挙で近来の共和党候補者の誰よりも多い得票だったトランプ前大統領が2024年の選挙に再び出てくる可能性もあります。そして、来年のフランス大統領選で今、第一回投票で誰に投票するかというアンケートでトップを走っているのは極右のマリーヌ・ルペンです。ということは2025年あたりに日米仏で極右政権がそろって誕生している可能性もあることを意味します。文化多元主義に危機を感じる人は3国でかなり増えていて、極右だけでなくリベラルな志向の人の中にもこのまま異文化・異民族の移民が増えていくと、国のあり方が根底から変わってしまうと危機感を持つ人が増えているのは確かです。ということは文化多元主義に逆行する政策が再び打ち出され、一国だけでなく、国々が連携して進めることでそれが世界のトレンドになっていく可能性もあります。もしそうなったらグローバル経済はどうなっていくのでしょうか。

  私が来年のフランス大統領選に注目する理由も、それをうかがう最初の選挙戦となりそうだからです。しかし、その一方で、前にも書きましたように、フランスのデュルケームの「自殺論」のように、同じ経済の発展段階の国々であっても、宗教や文化によって、社会のあり方が異なると、社会問題の解決の仕方とか問題の波及の仕方などにも変化が生まれます。極右と言ってもフランスとアメリカと日本では細かく見ると、いろいろ違いがあります。そうしたことも私の今の研究テーマになっています。国のあり方を決める時に、その国の支配的な民族だった人々と、マイノリティの構成比率が今後は注目をもっと集めていくことになるでしょう。極右の政治家はマジョリティの構成比率を高めて、社会の結束を促し、マイノリティに責任を押し付ける政策や言動を強めていく可能性が高いです。こうして3カ国を並べてみると、安倍首相は戦後レジームに対する否定的発言は知られていますが、意外と中国や韓国に対して、マリーヌ・ルペンやトランプほど露骨な発言をしていない、もっと慎重な政治家であることを私は感じます。嫌韓運動などは安倍首相というより、自民党周辺のネトウヨたちが積極的に行っています。

  米国でトランプ大統領が2024年の大統領選で勝つ可能性は、バイデン大統領が任期中に死亡するか病気で職務が不能となり、交代した副大統領だったカマラ・ハリスがうまく経済問題をハンドリングできなくなった場合が考えられます。ハリスがいかにぶれない政策を打ち出したとしても、共和党の反対で法案などが骨抜きになったりすると、有権者の不満が高まっていき、オバマ大統領の1期目の中間選挙のように共和党に支持を奪われてしまうことにもなりかねません。トランプ大統領は今極右メディアを作ろうとしており、ホワイトハウスの外にいながらも存在感を増していく可能性があります。

 フランスでは極右候補者は大統領選の2回目の決選投票で惨敗するというジンクスがありますが、2002年の父ルペンの時の約18%に比べると、2017年は約33%と父の時代よりも票を倍近く上げています。そして、マクロン大統領の時代にデモ隊の中で機動隊のゴム弾で手足や目を失った人々が数百人単位で出ており、政権への恨みは根強く残っていくものです。その結果、決選投票では極右候補者の反対の候補者に投票する、という習慣が今後も続くか未知数です。むしろ、マクロン大統領を引きづり降ろすために極右の候補者でも構わないと1票を投じる人が出てくるかもしれません。それくらいマクロン大統領は左派ないし極左の人々の怒りや反発を買ってしまいました。そもそも社会党を衰退に追い込んだ張本人がオランド大統領の側近だったマクロンだったのです。左派の票の何割かがルペンに流れれば形成は逆転することもあり得ると思います。ルペンはグローバリゼーションに反対で(つまり反EUで)、農民や労働者を守るなどと言っていますから、今の中小独立業者や末端的な労働者の中にはルペンに期待する人が増えています。

 安倍首相が再登板した場合に関しては、私はまったく予想がつきません。第二次安倍政権の時のような高い支持率が維持できるのか。安倍首相の昨年春の段階を思い出すと、北方領土返還は絶望的になり、鳴り物入りアベノミクスも庶民にとっては生活の底上げになっておらず、いったい何が実績なのかと言えばさしたる実績はなかった、と見る人は少なくありませんでした。一方、特定秘密保護法有事法制は確実に進められています。安倍首相の再選を望む人々が期待するのは日本国憲法を改正して、労働者の権利を弱めて、自衛隊を国軍化して普通に戦争できる国にする憲法にすることでしょう。これは冷戦終結から30年間の一貫した日本政治のトレンドにあり、長期的な視点に立てばこのトレンドを変えない限り、必ず憲法は改正されると思います。私の周囲のメディア関係者を見ても、戦争に対して反対の声を公にあげてきた人々の多くはすでに死んでしまったのです。でも戦争になったら大変ですよ。税金も重くなります。

 2013年の安倍首相の第二次政権出発時と違っているのは、アベノミクスの効力がもはや効き目を持ちえないことです。それに代わる何かを自民党は見出せるのでしょうか?憲法改正のイシューだけで選挙を勝てるのか?という点です。自分が自民党員だと仮定してあえて辛めにこのテーマを考えてみると、安倍首相の再登板がそんなにうまく行くかについては未知数な気がします。ただ、バイデン大統領は北朝鮮とロシアに対して、敵対的な姿勢を持っており、北朝鮮と有事に至る可能性はトランプ大統領時代より少し高いのではないかと思います。その意味では第二次朝鮮戦争の勃発は安倍首相への最大の追い風になるでしょう。