「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

ジェローム・カラベル(米社会学者)「トランプ主義は生き残る」 ~アメリカの民主党と共和党の支持層の逆転現象~

  前回ご紹介しましたカリフォルニア大学バークレー校のジェローム・カラベル名誉教授(Jerome Karabel )がフランスのルモンド・ディプロマティーク誌に昨年12月、大統領選挙の後に寄稿したテキストを、カラベル教授の許可を得て、私のブログにて全文翻訳いたします。タイトル「Trumpism will outlive Trump」(直訳は、「トランプ主義はトランプより長く生きる」)からうかがえますように、トランプ大統領は選挙に敗れたとしても、その考え方や行動は「トランプ主義」という形で未だ根強い人気があり、今後も続くであろうことです。バイデン大統領が今まで通りの民主党穏健派の立ち位置から抜け出し、労働者や庶民の党としての方向性を取り戻さなくては、やがてトランプよりももっと切れ味のある極右政治家の台頭を許す可能性があるというものです。

 私はカラベル教授が2016年のヒラリー・クリントンの敗北直後に執筆してハフィントンポストに寄稿した米民主党論に大きな感銘を受けました。「ああ、そういうことか!」と謎が解けた気がしたのを覚えています。民主党の敗北の原因を1964年まで遡って検証した一文で、今回は民主党がかろうじて勝利したというものの全然油断できる状態には程遠い、という警告とある意味では激励の文章のように読むことができるでしょう。

f:id:seven-ate-nine:20210508170451j:plain

ジェローム・カラベル(社会学者 カリフォルニア大学バークレー校・名誉教授)Jerome Karabel (Professor of sociology, University of California at Berkeley)

「トランプ主義は生き残る」

 

 ジョー・バイデンは僅差でドナルド・トランプに勝利した。最終結果について数日間、悶々と待たされた挙句のことだ。しかし、バイデンの勝利は民主党が熱烈に期待したトランプやトランプ主義に対する決定的な拒否というにはほど遠い。逆に、この選挙は全体として災禍と言ってもよいものだった。というのも、民主党員が潤沢な資金を投じた努力に比べると失敗と言っても過言ではないからだ。わずか3か月に15億ドルが投入されたものの、最も重要な上院での優位を取り戻すことができなかったばかりか、下院でも議席を減らし、各州の州議会でもマジョリティを得ることができなかった。州議会は米連邦制度においてはかなりの政治力を維持しているのである。

 あまり楽しくない真実だが、もしパンデミックとその経済への影響がなければトランプは恐らく再選の途上にいた。4年の間、トランプは米国民を絶え間ない嘘にさらし、新型コロナウイルスへの対処には失敗し、そもそも残酷な性格で、何かあればすぐに陰謀論を語りたがり、常に父権的な態度で、大統領の力量はなく、人種的な敵対心を煽り立ててきた。それにも関わらず、アメリカ人はトランプに7300万票ものご褒美に与えたのだ。この数字は歴代の共和党の大統領候補者の中で最大の得票数である。さらに2016年の大統領選挙の時よりも1000万票も積み増している。

 2020年2月の段階で米経済は堅調だった。失業率は3.5%と史上最低に近く、インフレ率も2.3%に過ぎなかった。さらに2019年の最後の四半期は2.4%と健全だった。経済は強く、現職という有利さに加えて、大きな戦争もなかったため、政治学者やエコノミストの多くはトランプが有利だとの見通しを立てた。2020年初頭の世論調査でトランプはバイデンに少し差をつけられていたものの、3月12日までは(すでにパンデミックはニュースのヘッドラインを飾ってはいたが)、賭博市場ではトランプの勝利が予測されていた。CBS世論調査でも有権者の65%がトランプの再選を予測していた。

 パンデミックとその後すぐに訪れた悲惨な経済の下降はトランプの見通しに決定的なダメージを与えることになった。だが、トランプ主義は国民から決して引き抜かれたわけではなかったのだ。トランプは何千万人もの熱狂的な支持者に支えられている。さらにClub for Growth (成長のクラブ:課税や再分配に反対している)やFamily Research Council (キリスト教原理主義のグループで妊娠中絶、離婚、ゲイの権利などに反対している)のような右翼組織や、Fox Newsあるいは Breitbart Newsのようなメディア機関はトランプの運動を支えていて、強固なものにしている。過去100年以上の歴史で最大級の人種構成の変化が進行している今、移民に対する敵意が膨らんでいる。また異人種への憎しみや教育程度の高い人々から受ける文化的な蔑視、さらにグローバリゼーションによって一部の多国籍企業とエリートたちだけが利益を得て、地域コミュニティが壊され、多くのアメリカ人の生活水準が低下しているといったこれらすべてのことが、トランプにパワフルな魅力を与え、これらのゆゆしき諸力は決して消え去りはしなかったのだ。

 

■エリートに対する反乱

 

 トランプ主義は政治的、経済的かつ文化的なエリートたちへの世界的なポピュリストの反乱の一部であり、グローバリゼーションや工業の空洞化によって苦しんでいる人々に最も支持されている。メジャーな政党によって真の問題が無視されるか、過小評価されている時に、右派のポピュリスト運動は栄える傾向を持つと、ジョン・ジュディスは書いた。まさにトランプ主義を可能にしたものはそのような不作為だったのである。

民主党ドナルド・トランプの大統領当選について責任がなかったとはとても言えない。ビル・クリントンが進めたNAFTAや中国のWTO入りによって米国民の雇用は失われた。ある推定では、中国のWTO入りで米製造業の雇用は240万人も失われたのだ。後に、オバマウォール街に親しい人物(※ティモシー・ガイトナーを指す)を財務長官に任命したうえに、2008年のリーマンショックで起きた経済恐慌に責任のあるウォール街の幹部らを誰一人訴追しなかった。その一方で経済恐慌で家や年金を失った何百万もの人々を守ることができなかったため、普通の人々はもはや民主党は庶民の利益には関心がないのだと感じるようになった。民主党自由貿易協定へののめり込みは、労働者たちを犠牲にしてビジネス界を喜ばせたことだったが、そのことで民主党は大きな政治的代償を払わされることになった。MITの経済学の教授、デビット・オトゥールによると、中国に絡んだ貿易摩擦のおかげでミシガン州ウィスコンシン州ペンシルバニア州でトランプが勝利することになった。これらの州こそ、2016年の大統領選でトランプを勝利へと導いた州なのである。

 歴史を振り返ると、労働者の党だった民主党は労働者階級の支持を長期的に失い続けてきた。中でも白人労働者の間でこの傾向が著しい。大統領選の初期の出口調査や、選挙前の最後の日々に行われた世論調査から~白人で大学卒業免状を持っていない有権者では67%対32%でトランプに投票するとの結果が出た~この傾向が2020年まで続いていたことがわかる。さらにトランプは中でも白人の福音主義者(キリスト教原理主義)に絶大な人気を持ち、彼らの81%がトランプに投票した。また、地方の田園地域の在住者の間でも65%もの支持を得た。

 意外なことに、米国で最も貧しい下院選挙区の地域群では2000年以後、共和党支持者が増えている。それらの地域では民主党よりも共和党に投票する可能性の方がはるかに高い。一方、全米で最も豊かな50地域のうち44地域で~最もリッチな10地区ではすべて~今では民主党議員が選出されている。民主党共和党支持者における、この階層の逆転現象はドナルド・トランプがいなくなってもトランプ主義を再び生み出す肥沃な土壌となる。したがって民主党が弱い人々や取り残された人々を放置しておくなら、彼らの多くはますます共和党に傾斜していくだろう。共和党は彼らにすぐに使えるスケープゴートを与えるのだ。移民や、黒人、外国人、そしてその定義には問題のあるパワフルな「エリート」である。

 共和党は極右の政党と化した。目下、ハンガリーやトルコを統治している独裁傾向を増している政党と同じくらいに過激に走っている。そして、アリゾナ州上院議員ジェフ・フレークやサウスカロライナ州の下院議員マーク・サンフォードのような穏健派議員たちはほとんど共和党を放擲されかけている。共和党はトランプ主義者の手にしっかりと握られ、予見できる未来のためにそうあり続けるだろう。

 

■「永遠の人種差別」

 

 他の資本主義の民主国家群に比べて、米国は右翼のポピュリズムが活動しやすい環境である。人種的な煽りには深い根があるのだ。たとえば1968年に第三党から大統領選に出馬したジョージ・ウォレスが驚くほど大きな支持を得たケースである。彼がアラバマ州知事に就任した時、演説で「今日も人種差別、明日も人種差別、永遠に人種差別だ」と語ったのは有名だ。欧州の多くの国に見られるような移民に対する強力な敵意に加えて、経済低迷に対して防波堤のない最も弱い人々を救う手立てに乏しい米国の福祉の実情を考慮に入れれば、未来のトランプ主義運動は熱狂的な大衆の支持を集める可能性がある。

 トランプ主義のようなタイプの運動が未来に孕む危険性は欧州の多くの国々よりもむしろ米国の方が高い。というのも欧州では比例代表制が一般で、いつもとは限らないにせよ、しばしば極右のポピュリスト政党は少数派にとどまるからだ。オランダの自由党は2017年の国会議員選挙で13%しか得られなかった。スペインのVox党は2019年に15%しか得ていない。だが、米国では右翼ポピュリストは二大政党の1つを支配しているのだ。first -past-the -post制(FPTP制=全体の比率から見て、わずかな得票でも投票で1位になれば当選できる)と呼ばれる選挙制度があることで、第三政党が非常に生まれにくい障壁になっている。米国の選挙システムはトランプよりもはるかに危険な未来のデマゴーグが台頭する機運を高めている。ロナルド・レーガンのような広範な人間的な魅力と、バラク・オバマの知性と自制を兼ね備えた政治家をちょっと想像してみるだけでよい。ハンガリーの民主主義を相当に切り崩したヴィクトル・オルバンのアメリカ版が台頭する可能性は決して否定できない。

 バイデンは深く二極化した国で大統領に選ばれた。国は100年超に一度という最悪のパンデミックによってぐらついている。そして、彼が大統領職に適しているかどうかは未知数だ。パンデミックは不平等をさらに悪化させ、トランプ主義が台頭する舞台作りを手助けする。労働省によれば、今の景気後退は米国市場で最も不平等なものになっている。パンデミックの危機の中、報酬の低い仕事は高収入の仕事に比べると8倍も失われているのだ。リモートワークへの移行はまさに教育水準の高い人々に大きな利益を与え、大学卒業資格のある労働者は高校卒業の免状しかない労働者に比べると、最初から4倍も家庭で仕事ができていたらしいのである。

 一方、アメリカの最も富める者たちはこのパンデミックによって大儲けをした。全米でロックダウンが始まった3月18日から10月20日までの間で、米国の643人の億万長者たちは富を9310億ドルも積み増した。これは彼らの全資産の3分の1近くにもなる。バイデンはこれら超富裕層に恩義があって、過去6か月の間に2億ドルもの選挙資金をバイデンのために集めた。一人当たり10万ドルかそれ以上になる。米国の主要な経済力を持つ企業で、ウォール街、巨大テクノロジー企業、ハリウッド、さらに投資会社まで、バイデンは彼らの基本的な経済的利益を脅かすことがないと思ったのだ。

 上院では情け容赦のない(共和党の)ミッチ・マコンネルによって采配が行われるであろう以上、バイデンは法案を通そうとしても強い壁にぶち当たるだろう。同時に、上院で右翼議員の抵抗にさらされる傍ら、バーニー・サンダースとエリザベス・ウォレンに連なる民主党左派からの圧力も受けることになる。これらの双方からのプレッシャーをどうまとめるかはいかなる大統領にとっても興味深いものだが、バイデンのようにカリスマのない政治家の場合はあまりそうではあるまい。

 

■バイデンは米国の労働者の支持を再び得られるのか?

 

 バイデンはマコンネルに率いられる国会の共和党議員たちとの違いを見せるだけでなく、副大統領として非常に忠実に使えたオバマ政権との差別化をもする必要も出てくるだろう。トランプ主義の復活に対して、先手を打って封じるためには、バイデンは大胆かつ毅然と行動して、自分の立ち位置が過去40年の間に共和党と同様に民主党によっても進められてきた新自由主義政策によって不利益を被った多くのアメリカ人の側であることを示さなくてはなるまい。つまり、バイデンは長年、彼の立ち位置だった穏健な中道的立場から別れる必要がある。状況が劇的に変わったこと、民主党内の進歩的な勢力が活気づいたこと、さらにバイデンの順応性がそれを可能にするのだ。

 その転換とはどのようなことか? 劇的な~しかも政治的な人気も持ちえる~戦略は、このパンデミックの際に莫大な利益を上げている者たちに第二次大戦中のような重税を課すことだろう。また、それ以上に必要なことは、長い間必要とされてきた包括的な救援策によって、パンデミックの景気低迷で最も打撃を受けた人々(とりわけ低賃金労働者、失業者、小規模事業者である)を支えることであり、巨大企業へのテコ入れとは異なる。もう1つ別の重要なステップは、今しも住まいから追われかかっている賃貸住宅の住人や家を持つ人々を保護するための法案を通すことだ。

 たしかにこれらのような手段が、目下共和党が優位に立つ上院を通ることは難しく思われる(上院の情勢は1月のジョージア州の選挙結果に依存するだろう)。だが、このような方針を進めれば、少なくとも民主党が労働者階級に対して、明確に党が変化したことを伝えるきっかけになる。最低でも、こうしたテーマを掲げれば民主党の立ち位置がどこなのかが有権者に明確になり、何もしない上院に対して2022年の重要な中間選挙では民主党にチャンスを作り出すだろう。すべての中で最も大切なことはフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領のニューディール政策の精神に立ち返って、普通の人々の党であるという方向性を復活させることだ。これこそが恐らくはトランプよりももっと毒性の強いトランプ主義の復活に対する最も有効な解毒剤となるはずだ。

 

 ジェローム・カラベル (カリフォルニア大学バークレー校名誉教授:社会学

翻訳:村上良太