「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

フランスに関する日本での報道を誰が仕切ってきたのか?

   日本の大学授業料は非常に高く、日本はアメリカと比べても、奨学金などの制度の少なさを考慮すると世界で最も教育に国がけちっている教育ド貧国になり下がっています。このことは近年、よく取り上げられますし、授業料のグラフもよく出ているので、今更でしょうが、文科省の下のデータでは昭和50年(1975年)からの国立大学と私立大学の授業料と入学料などを記した表が出ています。

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  私が学生だった昭和の末期は国立大学の授業料が年間約25万円から一気に30万円(1989年)の大台に乗りました。昭和50年(1975年)が36000円だったことを考えると、何かが起きたとしか考えられません。なぜ授業料が高騰するか、をきちんとその原因を説明してもらったことが私にはありません。しかも、1989年以後の平成に入ると、デフレに向かって物価が下がっていったはずなのに授業料だけはマイペースで上がっていきました。その結果が、現在の約54万円です。

   以下は1976年から最近までの都内の塾の月謝の推移を示すグラフです。1976年に6820円だったのが2019年には26274円になっています。大学の学費やら、進学塾の授業料やらで、親の収入が子供の教育に与えるインパクトは半端じゃなく強いことが今更ながらわかります。母子家庭で非正規雇用の母親であれば、どれだけ苦しいかが想像できるでしょう。あたかも離婚した女性に見せしめの刑罰を与えているかのようです。

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  そして、進学塾の授業料が高騰している間、学校ではゆとりの授業が進められていました。親の資力で子供の学力に差がつくように確信犯的に政府と行政官たちが40年がかりで指導してきたと言っても過言でありません。

 ドイツやフランスでは国立大学の授業料が基本的に無料であることが、日本ではほとんどテーマになってきませんでした。個別にはそういう議論や報道もあったかもしれませんが、大きな渦になったことは最近までありませんでした。私が「立ち上がる夜 ~<フランス左翼>探検記~」を書いた動機にも、フランスと言えばクロワッサンとか、おしゃれな部屋とか、最新刊の恋愛小説などの報道はたくさんあっても、フランスの授業料について、少なくとも私の見た限りでちゃんとフランスの社会民主主義を伝えたものが記憶にない、ということが根っこにありました。私は日本で出版される雑誌については、女性向きのものが多いわけですが、割と目を通す方です。でも、そういう社会事情はなぜか取り上げられないんですね、普通。例外はフランス人の女性が子供を日本の女性よりも産んでいる背後の福祉的事情くらいでしょう。

 フランス事情を日本に入れる時に、何かのフィルターがあって、そこでInとOutを出版業界あるいはその外郭にいる人々が決めているんじゃないか、と思っていました。そして、実際に、2016年に起きた「立ち上がる夜」という市民運動に駆けつけると、私が思っていた通り、フランス人たちの社会問題や福祉の問題などをみんなが広場に集まって毎晩、真剣に議論しているではありませんか。ところが、そうしたことは日本ではほとんど報道されないんです。それだけでなく、一連の取材を始めようと日本で準備にかかった当初は「立ち上がる夜」は貧困や格差社会の問題とは何の関係もないという話を~それは後で現地に実際に行ってまったくの嘘だと判明しましたが~パリの日本のメディア関係者から脅しのようにされたこともありました。

 フランスの大学の学費制度の素晴らしさもほとんど口を閉ざしていれば、また社会問題についてもほとんど語らず(書かれるのは暴力沙汰や流血があった時だけです)、書かれているのはおしゃれなレストランやパン職人あるいは100年前の巨匠たちの伝説ばかり。いささか単純化してしまったかな、と思いますが、でも率直に言って私にはこんな風に感じられました。日本にフランスのあるものは入れていいが、あるものは入れちゃいけない、ということです。フランスに関する日本での報道を誰が仕切ってきたのか?このことはいずれ明らかになるでしょう。誰かが陰謀として、やっていたのではなかったとしても、そこに出版界の人々のある種のフィルターがかかっていたのではないでしょうか?哲学や思想については過剰なほど翻訳が出る半面、学費の研究とか、福祉について詳しく一般人に伝える本はとても少ないというより、町の書店でほとんどで見たことがありません。日本の政治や経済のあり方に影響を与えそうな本が紹介されるのはごくごく一部だけです。しかも、翻訳される場合は、日本の実情にそのまま直結しそうな具体性に乏しい本が多かったのではないですか。私は、そういう小さな蟻の一穴のような、フランスに関するプロたちの不作為の積み重ねが、日本の若者たちの多くをとても苦しめる元凶になってきたのではないかと思います。授業料の高騰は間違いなく、少子化の一因にもなっていると考えています。