「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

「甘いバナナの苦い現実」 フィリピン南部・ミンダナオ島の山間地における農薬散布の現実を取材

 2016年の夏に、それまで私が世界の民主主義をめぐる動きなどを取材してきたNHKBS1の担当番組が終了し、以後は本を書いたり、NGO制作のビデオ作品を監督したり、という様に違った歩みを余儀なくされました。アジア太平洋資料センター(PARC)で作った「甘いバナナの苦い現実」(2018)という70分強のビデオ作品も私が監督したものです。アジア太平洋資料センターはフィリピン・ミンダナオ島のバナナ生産現場の現実については今から約40年前に鶴見良行さんが書いた「バナナと日本人」に象徴されるように、極めて早い段階から注目して調査を行ってきたNGOです。「甘いバナナの苦い現実」でもPARC理事で、フィリピンに詳しい立教大学の石井正子教授など数人の専門家の方々からいろいろ基本情報をいただきながらPARCのスタッフとともに現地取材をして制作しました。

  高地栽培バナナが非常に甘くておいしいということで、高い付加価値を持つバナナとして日本でも普及しつつありますが、最近高地栽培バナナの生産が始まった山間地は、1960年あたりからバナナをずっと作ってきたダバオ周辺みたいな平原地域とは違って、先住民が多く住んでいる地域です。空中から複数の農薬がミックスされた農薬を散布するわけですが、平地と違ってバナナ園の近く、あるいは中には、民家や小学校などが存在しています。風も吹きます。ですから、必然的に農薬を浴びてしまう子供や農家の家族が多数いて、失明したり、内臓疾患となったり、重い皮膚の障害が起きたりしているんです。

 私が現地取材をして一番衝撃を受けたのは、鶴見良行さんが40年も前に告発していたことが本質的には今日も日本企業傘下のバナナ園で繰り返されていたことでした。農薬自体は40年前に使用されていたような外傷が甚だしいタイプとは違ってきていて、むしろ外傷的にはソフトですが、子供時代に浴びた場合に脳とかホルモンに将来、何らかの異常が起きてしまうのではないか、という指摘があります。ミンダナオ島は今も貧しい地域ですから、まずそうした検証を行う医療団を結成することが難しいという現実があります。首都のマニラから熱心に調査に来る良心的な医師もいるのですが、個的な行動の範疇で、それではなかなか産業界のパワーに抗するのは難しいです。バナナ園の契約労働者は会社の医療サービスを受けられるのですが、労働者ではない周辺の人々の家族が健康被害を受けた場合は基本的にはほったらかし、というのが私が取材した時の状況でした。

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