「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

歌手のブリジット・フォンテーヌと画家のオリビア・クラベル

   ブリジット・フォンテーヌというフランスの歌手をご存知ですか?若くして非常に才気ばしった活躍をして、スターになりますが、普通の流行歌手的な歩みではなかったようです。細かいことまではわからないのですが、メディアに注目されてはしばらく距離を置いて、また出てきて・・・というようなことを繰り返し、非常に長く活躍してきた人で現在も現役です。そんな才人の歌手のミュージックビデオを作った人が今となっては私の知人でもある画家のオリビア・クラベル(Olivia Clavel) です。この「ヌガー」という歌は、これもやっぱり変わった歌で、彼女の部屋に突然、象が現れて「(お菓子の)ヌガーを頂戴」と言った・・・というようなシュールな歌なんですね。で、そこで次々と起きるシュールな状況をブリジット・フォンテーヌは歌っていくのですが、画家のオリビア・クラベルも負けないくらい前衛精神を発揮して、自由奔放な漫画というかイラスト世界を動画にしています。今のYouTuberたちもぶっとぶくらい奔放です。

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  オリビア・クラベルはブリジット・フォンテーヌの友達ですが、オリビア・クラベルも実はパリのボザールと呼ばれる国立の芸術大学に在学中から、早くもメディアで活躍して若くして注目を集めました。どうやって?というと、今も私が取っているフランスの新聞にリベラシオンがありますが、リベラシオンは哲学者のサルトルが1970年代に創刊した珍しい新聞です。リベラシオンがどれほど変わった新聞だったかというと、ルモンドやフィガロなどの普通の大手新聞が取り上げないような庶民の暮らしに寄り添って、彼らの生活にのしかかる現実生活のルポルタージュとか、文化とか、思想などを記事にして新聞紙面を作っていました。日刊紙でありながらも要するに雑誌みたいな、自由な「新聞」だったのです。もう1つ変わっていたのは、サルトルの信念もあったのでしょうが、給料が編集幹部から一記者まで全員平等だったことです。この方針は後に経営が苦しくなって変わっていきますが、それでも創業の精神はそんな前衛精神でした。これを哲学者が経営していたというところがすごいですね。サルトルノーベル文学賞を辞退した人だったことを思い出すと、納得がいくでしょう。そんな世俗的な価値体系に自分は安住しない、という姿勢を哲学者として示したのです。

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画家オリビア・クラベル 何年か前 

  オリビア・クラベルは同じボザールの学友であるルル・ピカソとかキキ・ピカソ(ピカソと言ってもあのピカソの一族ではなくペンネームです)、ルル・ラーセンと言った若い学生仲間たちと、リベラシオンのイラストを描くようになり、しかも、なんと特別版として彼らのイラストだけで紙面を全部作る、という実験を当時やっていたのです。国際記事などが織り込まれた報道的な紙面なんです。ただ、イラストが中心的な位置を占める、という試み。1970年代の半ばから1980年代初頭にかけてのことです。この若者の画家のグループは「バズーカ」と自らを命名し、新聞だけでなく、TVなどでもアイドル的な活躍をしていました。バズーカはあのバズーカ砲のバズーカ(Bazooka)ですね。 

 私はたまたまある画廊に出入りしていた関係で、そこの常連作家のオリビア・クラベルとも知り合いになり、アトリエを訪ねて取材させていただいたこともあります。

 オリビア・クラベルさん、今も毎日絵を描いていますが、とにかく心が若々しく自由です。アバンギャルドの魂は100まで、という感じです。私はオリビアさんの魂がとても好きですよ。

 

サルトルノーベル賞辞退

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