〇基本文法は1か月で完了
語学の勉強には終わりがありません。でも、前に書きましたように、基本は1か月でOKでもあります。昔出版されていた語学の入門書(基本文法)は1か月で終了できるものがたくさんあるんです。ですから、英語も1か月です。
そんなわけないだろう・・。英語は日本では教育体系に中で、私の時代なら中学、高校、大学まで含めると3+3+4=10年で、浪人時代とか予備校時代とか大学院時代とかが入ると、それに加算されます。どうして1か月なんだ、と疑問に思われるかもしれません。英語というか語学の学習には2つのフェーズがあります。文法はフェーズ1です。フェーズ1が終了したら、あとは辞書を使いながら、英字新聞でも原書でも何でもアプローチしてみてください。最初の1か月でまずは胸を張って運転免許を得たと言っても良いのです。英語だけでなく、フランス語でも、イタリア語でもそうです。なぜなら、あとは辞書を引けば読めるわけですから。そして、ここから先は努力次第で様々なレベルになり得ます。実は英語話者の中でもレベルは様々です。
〇文法をマスターした後は?
では一ヵ月やった後、どうやってもっと使えるようにしていけばよいのか?以下はフェーズ2です。
私は大学時代の教養課程の1年目で出会った英語の市川美香子先生に目を啓かれる思いをしました。それまで私は英語と言えば京都の某予備校で使っていた参考書<基本構文700選>みたいなのを暗記しようとしていたのです。しかし市川先生に言わせると小難しい構文をいくら覚えたとしても英会話する時にそういうのは実際はほとんど使えない。それはそうですよね、そもそもそんな難しい構文を私たちは考えて話したりできないわけです。
市川先生によると、高校の教科書や参考書に出てくるシンプルな優しい文をたくさん覚えて、すぐに使えるようにすればよいのです。英語の参考書を開けば基本的な説明の後に例文がいくつか載っています。これは極めてシンプルな文ですが、それを1つ1つ繰り返し言葉にして覚えていく。四の五の言わず、馬鹿の一つ覚えで、その例文がすぐ使えるように。このようにして、1つでも2つでも使えるシンプルな英語表現を増やしていくことが英語の学習なのだ、と。結局、複雑な構文というのは、シンプルな文がつながっただけのことなのです。
私は大学2年生になると、市川先生の教えを実践するために「総会英文法」という分厚い高校時代に買った文法書を携えて北米大陸一週旅行に出かけました。で、バス移動中に総会英文法に出てくる例文を片っ端から暗唱していきました。外国旅行中のバスの中というのは極めて英語の勉強に適した空間です。というのも、覚えれば覚えるだけ、すぐにその夜にでも使えて、便利さが増すわけ=不便さが減るわけです。
〇フェーズ2とは辞書を読むこと
基本文法は1か月でマスターしたら、その後は参考書のシンプルな例文をできるだけたくさん暗記する。でも、参考書はいくら分厚いと言っても量に限度があります。英会話や新聞や原書などの英文の読解にはそのくらいの単語や例文の量では全然足りません。ですから、その方法をもっと量的に拡大していく必要があります。私が最近、フランス語の翻訳経験を経て、気づいたのは究極的には辞書を読む、ということに尽きます。私がこれに開眼したのは翻訳を通して単純にまだ私のフランス語の単語理解が不足していることに気がついたからですが、考えてみると英単語もまだまだ不足しているのではないかと思い至りました。1つの単語でも10個ぐらい意味があるとしたら、10個読みつくす、ということが必要です。2~3の代表的な意味だけじゃなくて。というのも、たとえばフランス語の場合、真逆の意味に転じる場合も稀にあります。そういうことがなぜあるのか、と考えていくと言葉の歴史に行き着きます。それはその言語を話す民族の歴史と経験がその言葉の裏にあるということで、辞書を読むことはその歴史を想像し、学ぶことでもあります。
辞書には様々な単語が掲載されています。私が使っている英和辞典の収録単語数は約79000です。そのうち★印が~1つから3つまで~ついた重要単語は合わせて9600あります。ですから、私はその重要なおよそ1万の単語を読んで、それぞれの複数の意味を1つ1つ学んでいくプロセスこそが、「フェーズ2」なのだと思うようになりました。読んでノートに書き写した単語は蛍光ペンで塗ってマークしておきます。Aから順番にやったらやりきれなくなるでしょうから、Aから始まる単語からZから始まる単語までの中で、アトランダムに重要単語を日々、学んで、書かれている例文をノートにメモして暗記するまで繰り返す。
もし1日に10個ずつ単語を学べば、365日で3650単語。これなら3年以内に9600語は完了です。辞書の大切さは強調しても強調しすぎることはありません。ここにすべてがあると言っても過言ではないのです。辞書全部を読むというと「うへ~」な感じでしょうが、約8万単語のうち1万弱に過ぎません。ただ、そこはしっかりと全部覚えるくらいの密度で学習します。これこそが急がば回れ、ではないかと思います。ちょっといやらしい話ではありますが、英国も米国も長い間、階級社会だったために、どんなレベルの単語を使うかで、その人の出自も瞬時に、査定されてしまいます。その意味でも旅行会話の単語力があったとしても、ビジネスや外交となると、意識して底上げしていくことが大切です。
〇いずれは日本の国語辞典も読むことになるだろう・・・
私の予感はいずれは日本語の国語辞典もこの方法で再勉強することになりそうな気がします。日本人だから日本語くらい知っている、と考えがちですが、自分が使っている言葉の多くは生まれた家庭で使っていた単語力が左右しています。ですから、あまり意識に上らないかもしれませんが、日本語の単語力もかなり個人差がある気がします。そして、経済的な格差が拡大すると、ますます拡大しているのではないかと思います。翻訳をすれば日本語の単語力もまた翻訳に大切なことが理解できるのです。