「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

イスラエルの中道政治家に日があたる可能性  イスラエル政治の転換点

   イスラエルの政治は日本から見ると、なかなかわかりにくい、というのが正直な感じです。やはり、あの地域の現実をリアルに極東で感じるのはとても難しいのではないかと思います。私がそのことを強く感じたのは当時のイスラエル政界の最もパワフルな政治家だったアリエル・シャロンが2005年11月に右翼政党のリクードを出て、中道政党であるカディマ党を創設したことでした。リクードはネタニヤフがその後、2009年から実権を握って今日まで政権を10年以上維持しています。シャロンと言えば軍人出身で、かなりタカ派の印象がありました。そのシャロンが晩年に大きく、左に舵を取ったので驚いたのです。

 その時、カディマに加わった政治家にツィッピー・リブニ(Tzipi Livni)という女性政治家がいます。当時はまだ若く、将来はイスラエルの首相になるかもしれない、という気がしました。それは彼女の言葉が外国人にも理解しやすく、力強いことに加えて、ユダヤ人とパレスチナ人の二国家の平和共存という思想を維持していたことです。ネタニヤフ首相は、その二国家の併存という米国を挟んでユダヤ人とアラブ人が合意した政策を、アラブ人側の土地に一方的に入植することを繰り返し、挑発しては崩してきたのでした。しかし、ここに来てネタニヤフ首相のパワーは衰えてきて、彼を支えてきた宗教極右派への世界の眼差しが厳しくなっています。特に米国のジャーナリズムではリベラル派のジャーナリストや政治家がネタニヤフ政権を厳しく批判しています。そして、ここにきてニューヨークタイムズにツィッピー・リブニの意見が掲載されました。彼女は今も二国家併存を支持しており、この路線に戻らなくてはいけないと言っています。一方で、ハマスとネタニヤフの双方を強く批判しており、宗教右派が二国家併存を双方から崩していると言っています。この考えはまさにニューヨークタイムズのコラムニストたちの考えと合致しています。バイデン政権はトランプ大統領が強く支援したネタニヤフ政権から距離を置き、リブニらの中道派を支持する可能性があります。

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  以下はニューヨークタイムズに掲載されたツィッピー・リブニの意見。イスラエルに甘く、ハマスに厳しい印象がどうしてもつきまとうものの、ハマスイスラエル国家の存在をはなから否定していることは認められない、というのは理解できます。一方で、イスラエルからアラブ人を追い出そうとしているユダヤ教の宗教原理主義もまた二国家併存の構想を妨げるという意味で強く批判しています。私はシャロンの2005年の政治的転換にとても興味を抱いたのですが、その延長線上にリブニへの関心もあります。いずれにしてもイスラエルの政治を変える時期に来ています。しかし、実は意外にも彼女は順風満帆に程遠いところにいるのです。

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  彼女は2013年にHatnuaという新党を結成して、カディマを飛び出しますが、中道で二国家併存という目標は維持しています。すでに過去には外務大臣、司法大臣、副首相を経験しており、いつ首相になってもおかしくはない力量でしょう。しかし、情報を集めていくと、2019年の選挙で新党の支持が得られず、現在は政治から一線を引いているとの情報もあります。しかしながら、将来は未知数ではないかと思います。かつては首相まであと一歩というところまで行き、閣僚経験も豊富なリブニが政治を引退すると宣言したという2019年の総選挙。この時、以前、野党連合していた労働党から、連携を解消する旨を告げられ、それが世論調査で支持率が1%まで低迷するという結果となって、ついに立候補を取りやめるばかりか、Hatnua党自体も選挙から離脱する結果となってしまいました。これもまたイスラエルの政界の理解しがたいところです。

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