南カリフォルニア大学と言うとハリウッド映画人を輩出する映画の名門大学として知られる大学ですが、そこで映画について教えているカリスマ的な先生がドリュー・キャスパー教授だそうです。実は書店で見た時はそれほど引き込まれなかった、というよりはいささか疑わしい印象すら持ってしまったのですが、読んでみると大変面白かったです。やはり、ドリュー・キャスパー教授、面白く有益な講義をしています。
この本は通常15回で完結する映画学の講義を恐らくNHKの取材もあって、5回に圧縮して書き起こしたらしいものです。その5回の中に、脚本と物語の展開パターン、カメラワークや照明の考え方、編集と映画の中の時間について、演出について、色について、音についてなど、毎回、焦点をいくつか個別に当てて、様々な映画をベースに語っていくものです。で、本書の中では毎回の講座に絡めて、学生が参考に見ておくべき映画も紹介されています。
この講義の特色は映画について、総合的かつ各論的に一通り、知るべき事項が圧縮されていて中身が詰まっている、ということが挙げられます。これを知っていると、映画について鑑賞を深めたり、自分自身で映画を分析する時にかなり役に立つでしょう。照明の基本となる、3つの光の当て方などは私も最近知るようになったばかりでした。映画のカット数の変遷とか、縦横比、アングル、通常の映画の音のトラック数など、数値的に把握してデータを教えているのも実践的で、いかにもハリウッドの隣の大学ならではという気がします。シャープな語り口の裏に、地道な研究の蓄積があることが感じられます。
本書が出版されたのは2015年で、今の時代、映画は映画館だけというのでなく、インターネットでも様々な動画がされており、映画産業の「映画人」に限定されず、いろんな人が参照できる本かと感じました。
ドリュー・キャスパー教授による映画「12人の怒れる男」の分析