「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

貯金ゼロ、手持ちが1000円札1枚になった日

  「ああ、なんということだ!」

 あの日、所持金がとうとう1000円になったことを知ってショックを受けました。認識が遅すぎたというか。実は当時、TV番組の制作会社を退職後、半年間、脚本家になるべく修業を続けていて、その間は1日の生活費が500円という毎日。つまり、残る2日分になってしまったことを知ったのです。そんなことはもっと前にわかってもいいのですが、30歳だった私はよほどのんびりしていたのでしょう。

 困り果てた私は映画の専門学校に通っていた時にそこで演出を教えていて、在学中に松竹大船撮影所で助監督についたこともある前田陽一監督に電話をしてみました。当時前田監督は映画の企画が実現できない間は、代々木上原にあったTVのドキュメンタリー番組の制作プロダクションで仕事をしておられたのでした。話を聞いた前田監督はとっさに1日分のアルバイトを次の日に作って下さり、1万円と前田監督の郷里・兵庫県龍野の名産である醬油を一升瓶で与えてくれたのです。実際にはアルバイトの必要はなかったんですね、行ってみて無理に業務をこしらえてくださったのがよくわかりました。本当はご迷惑でしょうが、背に腹は代えられずで、ありがたいことです。前田監督、喜劇が専門ですが、日本の売春婦たちの人生を描いた処女作「にっぽんぱらだいす」など、視点の卓抜な名作を何本も作っています。でも、それから少しして、ようやく前田監督が映画「唐獅子株式会社」の撮影に入ったと思った矢先、がんでクランクインから1週間ほどして亡くなってしまったことを知りました。

  前田監督は喜劇を撮っていると、よく「世界を斜に見ている」と言われるけど、そうじゃない。「喜劇を撮るということは世界を正確に見ようとすることなんだ」と言っていました。