「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

ニューヨークタイムズのコラム「アフガンからの撤退がいけないことであるかのようなふりをするのはやめよう」

 共感したコラムがこれです。ニューヨークタイムズのコラム「アフガンからの撤退がいけないことであるかのようなふりをするのはやめよう」。タリバンが勢力を挽回してしまったことをもってして、バイデン大統領を非難する人が多いのですが、現実を直視せよ、とコラムニストのエズラ・クラインが述べています。このコラムにはオバマ政権の外交アドバイザーや米議員などの話が引用されていますが、この20年間の駐留がいかに途方もない無駄であり、結局、効果がなかったかが示されています。それだけでなく、ブッシュ政権以後のテロとの戦いで米軍が駐留したイラクリビア、イエメン、ソマリアといずれも事態はむしろ悪くなったことが示されているのです。

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  私がフランス語を社会に出て学び始めた動機が9・11だったことは前に書きましたが、ニューヨークタイムズで当時読んだ1つの記事が圧倒的な衝撃を私に与えたのを昨日のことのように覚えています。それはアフガニスタンの米軍空爆に巻き込まれて亡くなった無実のアフガン市民の数が3000人を超えた時でした。これはワールドトレードセンタービルで亡くなった人々の数だったのですが、同じだけの人が空爆で死んでしまった。これは不条理としか言いようがないものでした。しかも、死者の正確な人数すら不明でした。一方で、ニューヨークタイムズにはワールドトレードセンタービルに突入した飛行機に乗っていた乗客全員の写真入りの記事が一人一人の経歴付きで掲載されていました。アフガニスタンの人々はいったい誰がどんな風に死んだのか、名前すらわかりません。その後、死者の数はもちろんその何倍にも膨らんでいったのですが、これを知った時に、激しい矛盾、激しい怒りを覚えたのを記憶しています。

 そして、その後、イラク戦争が終わってみると大量破壊兵器が出てこず、それを受けて、アメリカという国家に対する疑問が一層、大きくなりました。その一方で、レンタルビデオ屋に行くと半数近くがハリウッド映画という有様で、以後、オバマ政権が始まる2009年まで5年近く、英語の映画は1本も見ませんでした。それぐらい、世界の現状に疑問を感じるようになり、今までアメリカを見上げるようにしていた人間だった私は、フランス語を学びながら、距離を置いて対岸を見るようになりました。ニューヨークタイムズですら誤報を行ってイラク戦争開戦の原因を自ら作り出しています。

  このように私は米国に激しい怒りを当時感じたのですが、その一方で、同じように感じている米国人も多数存在していて、そうした人々が米国をまともな国に引き戻そうと努力しているのも知りました。そういう意味では、このコラムが書いているように、バイデン大統領の決断を私は勇気ある決断だと評価して見ています。