先日、私は日本で新しい市民運動を立ち上げようと試みている左翼運動事務局の方から、フランスの左翼について教えて欲しいと言われました。私が話したのは、前回の2017年の選挙で社会党を含めて左派は大敗して、中道のマクロン新党がほとんど一人勝ちしていたわけですが、2022年のW選挙(大統領選と下院議員選)でも、2017年の再来の可能性がある のではないか、ということでした。というのは、左派政党はメランションを中心とした極左政党グループ、共産党、社会党と少なくとも3派に分裂して、第一回投票を迎える可能性があることです。下の記事は、社会党員でパリ市長であるアンヌ・イダルゴが大統領予備選に名乗りを上げたというルモンドの記事です。
世論調査ではすでにマクロンとマリーヌ・ルペンが大統領選の最有力候補として挙げられており、その構図を壊そうと思ったら、左派政党が候補者を一本化しなくてはならないのではないかと私は思います。
社会党が大統領を生んだ2012年の大統領選はどうだったかと振り返ってみましょう。1回目投票では社会党のオランドが勝ち進み、決戦で右派政党(共和党)のサルコジ現職と戦って勝ち抜きました。この選挙では当初、左派候補は社会党のオランドと左翼党のメランションに分裂し、共産党はメランションと組んでいました。また左派政党の緑の党も独自候補エヴァ・ジョリを擁立していました。その意味では左派政党は第一回投票で足並みがそろっていなかったのです。しかし、オランドは決戦まで勝ち進むことができました。というのも、当時はまだ社会党と共和党の二大政党制が崩れていなかったためでした。社会党はそれ自体が大きな勢力でした。さらに決戦になれば当然、左派は一本化して左派候補に投票します。
ところが2017年のW選挙の際、社会党からマクロン新党に鞍替えしたり、党内左派議員だった人々も党を飛び出したり・・・と社会党に不満を持った議員が流出する結果となりました。社会党はこの時のダメージから今も再興できていないと私は思います。長年社会党員だった私の知人のフランス人も2017年に党員を辞めてしまいました。
今年の地方選ではかつての二大政党が存在感を示し、つまり、社会党と共和党が勝ちました。それでも来年の大統領選はそうなるとは限りません。地方選は中間選挙みたいに与党への批判票とも受け取れますし、大統領選ではその逆になる可能性があるのです。米国ではその傾向が強いです。左派政党にとってはいかに決戦まで勝ち進むかが最大の課題です。2017年の大統領選で大統領になる可能性もあったメランション候補ですが、今回は新鮮味が乏しくなって、サプライズに欠ける印象を受けます。しかも、前回の選挙で社会党との連携を彼が拒んだことが、今回も左派勢力の1本化を困難にする原因となっており、今回の選挙にも暗い影を与えているように思います。
過去との最大の違いは極右政党の国民連合が大統領選で第二位につけるまでに勢力を増し、二大政党制を切り崩してしまったように見えることです。その意味で、来年の選挙は2017年を例外的な年に戻して、二大政党制に戻るか、それとも極右政党が確かな勢力となって、この傾向が不可逆となるかがわかる選挙となるのではないかと思います。
環境政党で左派に位置する緑の党は小勢力ですから、大統領選挙に候補者を立てて討論会などの場で政策を訴えることで認知度を高め、地方選挙などにい役立てたいという思いがあります。ですから、小政党でも独自候補を擁立して選挙戦に臨む、ということは確かに理にかなっています。しかし、4月になって、第一回目の投票が近づいてきた段階で、世論調査の結果も出て、泡沫候補と決戦に残れそうな候補が明瞭になってきます。その時になって、候補者調整を行うという手はあります。私が思うに、そのためにも今から、日本の市民連合のような野党共闘を促す組織が立ち上がって、第一回投票で左派候補を決戦まで勝ち進められるように調整を政党側に促す試みを行う必要があると思っています。
※そんな風に思っていたら、次のような記事が目に飛び込んできました。これはフランス版野党共闘かもしれません。また、改めて書きたいと思います。