「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

日本の学生が選ぶゴンクール賞の選考が始まる

 ゴンクール賞と言えば日本の芥川賞みたいなフランスで最も権威のある文学賞です。実はゴンクール賞にはゴンクール賞の委員会がある段階までセレクトした本を土台にして、そこから高校生たちが選考する「高校生が選ぶゴンクール賞」という部門があります。フランスの高校生2000人が候補作を読んで、若者の視点から最高と思う作品を選ぶため、ゴンクール賞のおおもとの受賞作とは異なる作品がよく選ばれます。そして、フランス以外でも20以上の国々で大学生を中心に、やはり候補作を読んで選ぶゴンクール賞というのがあります。この試みが今年、日本でも始まることになりました。すでにゴンクール賞自体は決まっていますが、日本の学生たちは候補作段階の9本から独自に自分たちのやり方で1本を選ぶことになります。決定は3月です。その間、フランス文学の教授たちが学生たちの読みを手助けしたり、レジュメを作ったりとサポートをするのです。

  私はこの試みを始めた日本の全国の仏文科の教授たちの準備のための話し合いに参加させて頂きましたが、フランス語で4冊ほどの本を4か月ほどで読むというのは大学の学部学生たちにとっては大きなプレッシャーであろうことで、それを手弁当で支援する教授たちにとっても大きなプレッシャーであろうと思います。でも、大学単位の講義やゼミではできなかったフランス文学の最前線をあえて学生たちにチャレンジさせ、大学の枠を超えて文学作品を選考するための議論を行ってもらう。これによって学生たちも成長するのではないか、と思えるのです。そして、当然ですが、若い人々が参加することによってフランスのゴンクール賞も蘇ったと言われていますが、日本のフランス文学の場も活性化してくれればよい、と思います。

  私自身の体験になりますが、大学に入って最初の年に英語のリーダーの講義でトマス・ピンチョンの「低地」という作品を米文学の教官から読まされていました。ピンチョンは当時を思い出せば文学の最前線と言ってよい米作家であり、テキストの最初のページから辞書をかなり引く必要があり、さらに辞書を引いただけではわからない象徴的な表現も多くありました。そして先生が大変厳しかったために、あてられて恥をかかないようにと予習を必死でやりました。この先生がもし私たち学生の実力にあうようなレベルを落としたテキストを選んでいたら、多分、私も適当にやり過ごしていたと思いますが、先生の厳しさと最前線のテキストをあえて読ませる、という真剣さに打たれ、それまで英語の勉強と言えば女子学生の花嫁修業と馬鹿にしていた私は、考えを改め、真剣に取り組むことになりました。そして、その翌年、私は辞書と高校時代の分厚い文法書を携え、初めて北米一週旅行に出かけました。ゴンクール賞の試みはちょっとこの体験に似ているのかな、と私には思えます。近年、卒論を書かなくても卒業できる仏文科も増えていると聞きますが、若い時代に全身全霊をあげて取り組む経験は何物にも代えがたいと思います。ですから、この学生のゴンクール賞選考委員の募集に予想の2倍以上の100人もの学生が応じたことは嬉しいことです。