YouTubeチャンネル「フランスを読む」では、今回、翻訳家の野崎歓先生にご登場いただき、ジャン=フィリップ・トゥーサン作「浴室」について語っていただきました。この小説は原作がパリで出たのは1985年、そして野崎氏による邦訳が出版されたのが1990年1月でした。ちょうど、バブル時代の末期にあたります。若い男が浴室の浴槽に閉じこもって本を読みふけったりして引きこもってしまう。それを母親や恋人らがなんとか外に連れ出そうとするが・・・。
野崎先生の話をお聞きしているうちに、そういえば1980年代は若者同士で喧嘩をしなくなった時代と言われ、だんだん接触したり、討論したりするよりも個に閉じこもる傾向が指摘され始めた時代でした。ある意味で、距離を置いて冷静に眺めようという観照的態度とも言えるでしょう。でも、どこかで人につながりたいという思いも持っています。野崎氏はそのあたりをうまく語っています。コロナ禍で、今一度、読まれていい作品だと思いましたし、全然古びていない小説ですね。珍しいです。