The Interceptは米国の報道メディアです。ロシアの国営放送が米国のFOXニュースの報道番組から、バイデン政権批判にロシア語字幕を付けて報道していたことを紹介していました。このバイデン大統領批判というのは、私が紹介してきた考え方と視点は同じで、<NATOがウクライナを参加させないことを約束していれば戦争は防げた>というもので、米民主党元議員の発言も引用されています。
Russian TV Uses Tucker Carlson and Tulsi Gabbard to Sell Putin’s War (theintercept.com)
FOXニュースは共和党寄りの米保守派のニュースチャンネルです。私がこれまでも見てきたように戦争前のめりなのは~対アフガニスタンや対イラク戦争を起こしたジョージ・W・ブッシュを例外として~基本的には民主党の大統領でした。第一次大戦への参戦も第二次大戦への参戦も、ベトナム戦争も民主党の大統領時代に起きています。これは世界の民主化という民主党の理想主義が「世界の警察官」としての米国の国是と重なっているからでしょう。一方、共和党は中国と国交を結んだニクソン政権におけるキッシンジャー外交のように、「バランスオブパワー」という考え方を基本に持ち、独裁政権とも権威主義政権とも交渉することを是としています。これはキッシンジャー元国務長官が「外交」で述べていますが、19世紀の欧州で対ナポレオン戦争以来、確立されていた外交の考え方です。戦争回避には力の均衡が大切だ、というものです。
こういう風に見ると、複雑な気持ちになります。第二次大戦で米国が参戦しなかったら、ナチスが勝利していたかもしれませんし、日本は軍国主義を続けていたかもしれません。ロシアのプーチン大統領の国内政治も言論の自由がありません。その一方で、ウクライナ政府に兵器を買う金や兵器を与えることは戦争回避にはつながらず、NATO軍も直接介入しない方針である以上、ウクライナの国内での戦争がさらにエスカレートしていくばかりです。ロシアは核兵器を持っているので、ロシア国内でプーチン大統領を覆す力が生まれない限り、どうしようもない袋孤児に陥ってしまうでしょう。
このウクライナ問題は、日本の放送局は紹介しないかもしれませんが、日本の北方領土返還交渉と極めてよく似た構造を持っています。かつて安倍首相があれほどプーチン大統領に返還をもとめて働きかけた時、なぜ交渉が進展しなかったかと言えば、日米安保条約によってロシアから返還された北方領土内に米軍基地が建設されることをロシアは警戒したことが最大の要因です。このことは安倍政権時代にも報道されましたが、十分に考慮されたとは言えません。日米安保条約は、ウクライナにおけるNATO加入とパラレルです。ウクライナがNATOに参加すればウクライナとロシアの国境までNATO軍のミサイル基地が作られてしまう可能性があり、そのことはロシアにとっては安全保障上の脅威になってしまうのです。北方領土返還交渉でもプーチン大統領には最初から返還する意図はなかった、という識者もいるでしょうが、プーチン大統領は北方領土に米軍基地を作らないことを約束してほしい、と言っていたのは確かなのです。ですから、安倍首相が、オバマ大統領かトランプ大統領に働きかけて、北方領土に米軍基地を作らない確約を取り付け、ロシアにその約束をするだけの気概があれば結果は違っていたかもしれません。
このことは「ロシアびいき」というような皮相なことからではなく、ウクライナの戦争回避も、北方領土返還も相手があってのことで、交渉成立にはロシアの意図を真剣に考える必要があった、ということを示したいのです。