YouTubeチャンネルで、中江兆民の研究をしているボルドー=モンテーニュ大学のエディ・デュフルモン教授の話を収録して編集していますが、その過程で鮎川俊介著「波濤の果て 中江兆民のフランス」(郁朋社)を読みました。私は中江兆民については、ルソーの紹介者とか、自由民権運動というキーワードこそ、なんとはなしに知っていながら、細かいことになると皆目無知でした。そういうわけで、今回、番組作りをきっかけに、兆民について少し勉強してみようと思ったのです。兆民についてはいろいろな伝記が日本で書かれていますが、本書もその1冊。兆民のフランス留学のデテールが本書では書かれており、非常に役に立ちます。
とくに、番組のテーマでもある1870年頃のフランスにおける共和主義の思想家、法律家たちと兆民との交友が同じくパリに留学していた西園寺公望を通してのものだったかがよく理解できました。法学者のエミール・アコラースやジュール・バルニ―といった人々です。フランスでは1789年の革命開始以後、19世紀にはいると反動も起き、王政が復活したり、ナポレオンやその甥による帝政になったり、と政治体制が保守と革新の間で、二転三転します。兆民は革新派の側、すなわち王や皇帝はいらないという共和主義者のアコラースの弟子になりますが、アコラースはルソーを尊敬しつつも、ルソーの思想の弱い点~すなわち個人の権利を蹂躙しかねない側面~を指摘し、それを克服しようとしたこともよくわかります。本書ではアコラースと兆民の会話が書かれていますが、非常に示唆に富んだ面白いものになっています。ぜひお薦めの1冊です。