名優のセルジュ・レジアニが「脱走兵の歌」を歌っていました。偶然でしたが、今こそ、聞きたかったのはこの歌だったことを感じたのでした。
有名な反戦歌で作ったのは作家でジャズ音楽家でもあったボリス・ヴィアン。ヴィアンは今でこそ有名作家ですが、死後しばらくフランスでも忘却されていたそうです。それが1968年のパリ五月革命の時に再び脚光を浴び、彼の著作が次々と再刊行されたほか、この歌も歌われました。ヴィアン自身は1959年に若くして亡くなっているので、この歌はインドシナ戦争の時代の反戦歌であり、召集令状を受け取った若者が脱走を決意した兵士が(というか、兵士になることを拒否した兵士が)フランス大統領にあてた思いの歌詞になっていました。家族がいかに戦争で傷ついたか、そして自分の妻との関係が壊され、貧しい人々を殺すことになるのか。血を流す必要があるのなら大統領、あなたの血を流せばいい。そして最後に、もし私を止めたければ兵士たちに私は武器を持っていないから私を撃つように命令しなさい、と語っています。
ロシア軍の侵攻は、ウクライナをめぐって、様々な個々人まで2つの陣営のどちからに加担させようとする圧力を働かせ、そういった圧力は召集令状と同質の何かであると思います。終わったはずだった冷戦も終わってはいなかったのです。