「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

4月20日のTV討論で再び完勝したマクロン 

www.youtube.com

  フランスの大統領選挙では第一回目の投票前に候補者の討論会が行われ、過半数の票を獲得できた候補者がいなかった場合、決選投票の前に討論会が再度、二人の候補者の間で行われる。4月20日マクロン大統領(現職)とマリーヌ・ルペン候補の討論だった。フランスのルモンド紙はマクロン氏の完勝ぶりを伝え、今回も前回同様であったことをまず記して、1つ1つその象徴的なマクロン候補のルペン候補に対する攻撃ポイントを伝えていた。確かにルモンドが書く通り、マクロン候補の論戦はかなり手ごわいものだった。この討論は3時間弱の長さで、内政から外交まで多岐にわたる政策を論じる。

  特に筆者が勝負あった、と感じたのはウクライナへのロシアの侵攻に関する討論の際に、マクロン候補がマリーヌ・ルペン党首がロシア系金融機関から2017年の大統領選の際に選挙費用をねん出するために多額の借金をしたことを指摘したことで、今も毎月返済に追われているらしいということである。このことがルペン候補のロシアへの宥和的な姿勢とつながっていることをマクロン候補は匂わせ、マリーヌ・ルペン候補が大統領になったら、フランスがロシアに誘導されるという印象を与えたのである。この金融機関はプーチン大統領に近いとルモンドは指摘していた。これは政治家としては致命的だろう。(2017年の選挙の際、マクロン候補が選挙資金をどう賄ったか、と切り返すべきだったかもしれない)

  それ以外にも様々な点で、マリーヌ・ルペン候補はマクロン現職大統領を攻め切ることができなかった。たとえばヒジャブと呼ばれるスカーフを公共の場で禁止する、とルペン候補が発言した際、マクロン大統領は「政教分離の原則」は、宗教を禁止することではない。政教分離は信仰の自由を認めることにあると語って、フランス憲法こそ世界で最初にその原則を掲げた国であると誇らしげに語った。もし、ヒジャブを公共の場で禁止するなら、ユダヤ教のかぶり物とか、様々なものも禁止しなくてはならなくなる。それはいけないというのである。この点もマクロン大統領は、マリーヌ・ルペン候補の論理を展開しつつ、相手の破綻した部分を観衆に示していた。これはソクラテスの手法である。多くのムスリムは仲間であり、イスラム教徒とテロを起こすイスラム過激派とはきちんと区別する必要があるとマクロン大統領は述べた。この論理は、そもそもマリーヌ・ルペン候補が今までさんざん言ってきた理屈だったはずだが、討論会ではマクロン大統領にお株を完全に奪われていた。ルペン候補は、あたかも、マクロン氏に大統領の座を持って帰ってください、とでも言わんばかりの甘さ、あるいは弱さである。筆者にはマリーヌ・ルペン候補は(マクロン氏が候補者にならない)2027年があるからいいさ、と考えてすらいるように感じられた。

  そのほか、経済の面で、国の借金が大量に増えたことをルペン候補がマクロン大統領に指摘した際、マクロン氏はコロナ禍で、飲食関係や芸術家などを救うことが悪いのか、と切り返した。こうしたことを見れば、もし討論会の相手が3位に終わったメランション候補であれば、と願うフランス人が少なからずいたことにも納得がいく。マクロン大統領は、もともと経済大臣だったこともあり、数字に強い。その政策が新自由主義的であったとしても、討論になると数字を挙げて切り返す能力に長けており、よほど数字に強い候補者でないと、そこを覆して、さらに追及するのは難しいのかもしれない。それでも恐らく、ミッテランシラクの時の討論会などを思い返すと、大統領(現職)対首相(現職)の決戦であり、その討論はもっと地に着いた討論だったと記憶する。つまり、コアビタシオンという形で外交と内政を与野党で分担しながら、その党首たちの討論会なので、いずれも政策の基本的な事柄は頭に入っているのである。

  このTV討論会を見る限り、24日の大統領選挙はマクロン候補が勝ちそうだ。とはいえ、フランス人の何割がそもそもこのTV討論会を見たかは不明である。さらにTV討論会の勝利者が必ず、投票で勝利できるかどうかもわからない。マクロン氏にとっては、2期10年の任期が切れる5年後を考えて、彼が作った党「共和国前進!」の後釜となる候補者を、2017年の自分の最初の選挙戦と同様に、メディアを最大限味方につけて、売り出すのではないかと思われる。

 

※Le Pen's far-right party reaches settlement on Russian bank debt: court(ロイター)
「ルペンの極右政党がロシア銀行からの負債の件で和解」

www.reuters.com


  ロイターの記事で、ルペン候補の国民連合がロシアの銀行 the First Czech Russian Bank から900万ユーロの借金をしたことが記されている。2014年はウクライナとロシアの間で紛争のあった年である。