「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

国際ニュースの読みどころ  兵器輸出に注目したい

 国際ニュースの読みどころと言いますか、必ず着目すべき点は、国際間の兵器の売買です。国際間の武器の輸出入の数字を見れば、表社会で政治家たちが訴えていることと、裏側の本音との乖離が必ず見えてきます。今のウクライナにおける戦争もそうです。兵器はどんどん高額になっており、戦争が起こると兵器産業は儲かる上に、その産業に携わる労働者を抱えた地域は繫栄できますので、そこを地盤とする議員にとって戦争は死活問題です。しかし、表だって戦争を煽ることはできませんので、平和のためと表社会で訴えながら、兵器を国に買い上げてもらうような外交を行います。今、アメリカのバイデン政権が取っているのはまさにこういう方向性です。

  ロシアとNATOの確執で言えば、NATOが東方に拡大するということはNATO諸国の兵器産業にとって兵器の販路が拡大することを意味します。これはあまり論じられませんが、戦争の大きな魅力になっているのです。実際、今、ウクライナにどんどんNATOは兵器を投入していますから、公共事業と同じで、特に新型コロナであえいでいる労働者にとっては特需として、朗報になってることは間違いありません。2011年にNATOリビアカダフィ政権を国連決議を無視して空爆して政権交代させたことで、その裏で何が起きたかと言えば、ロシア製兵器やロシア製のインフラの輸入を計画していたカダフィ政権が倒れ、NATO側の兵器産業にとって市場が生まれました。逆に言えばロシアにとっては兵器市場がますます狭まっていくことを意味します。

www.theglobaleconomy.com

   このウェブサイトを見ると、兵器の輸出額の国際ランキングが出ています。まず毎年の傾向を見てわかることは、国連安保理常任理事国の5か国(中国、フランス、ロシア連邦、イギリス、アメリカ)がトップレベルを常に占めていることです。国連は本来、紛争の平和的解決を目指すはずではなかったのでしょうか?それがどうして常任理事国が兵器輸出をこれほどまでに独占しているのか?実に疑問に思いませんか?私はこれこそが国連の最大のスキャンダルだと思います。そこにはいわゆる「利益の相反」というものがあるのではないでしょうか?国連の決議で発言力を持つこれらの国は、戦争対策を自由に弄び、兵器産業が儲かるような国際カルテルを作っているのではないだろうか?‥‥そんな疑問すら浮かんできます。

 ドイツは第二次大戦でファシズム陣営で、日本と同じいわゆる枢軸国だったために国連安保理常任理事国ではありませんが、近年、メルケル首相の時代から兵器輸出を増やしており、しかも、紛争の起きている地域への輸出も解禁してしまったのです。そして、経済力のあるドイツこそが欧州連合の真のリーダーであることは明確です。ドイツは民主主義を訴えてロシアを非難していますが、2012年には「アラブの春」の民主化運動を抑え込みにかかったサウジアラビアに戦車を中心に、大量の兵器を輸出して儲けを上げています。これらのドイツ製兵器はイエメンの内戦でも使われています。実は、マクロン大統領が率いるフランスもサウジアラビアが率いる連合軍に兵器を売りつけて儲けています。イエメンではすでに内戦で餓死を含め、30万人以上が死んでいます。そこに兵器を雨あられと注ぐのが民主化を励ますことなのでしょうか?

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ドイツのサウジアラビアへの兵器輸出額の推移 DW

  日本のマスメディアは日本の兵器産業を顧客に持っているために、これについては国民に隠しているように思えます。そして、ドイツと同様に紛争地への兵器販売を解禁したいと考える人々が政府に圧力をかけていると思います。ウクライナの戦争について、前回紹介しましたアメリカの知識人チョムスキー教授が話していたように、アメリカもNATOも交渉の道を最初から極めて強硬に拒んできた事実があるのです。そして、ウクライナのゼレンスキー大統領を第二次大戦中のチャーチル首相に湛えて、最後の一人になるまでウクライナ人を戦わせる方針だと指摘しています。今、ウクライナにいくら兵器を輸出しても、ロシアは核大国なので非対称な戦争になっているのです。ウクライナをかつてのベトナムアフガニスタンにように戦争を長期化させて、ロシアをもっともっと疲弊させていく、とバイデン大統領が言っているという風にチョムスキー教授が解読しています。そして、ゼレンスキー大統領が本当は交渉でロシアと妥協する準備ができているにも関わらず、そうした本質はきれいさっぱりマスメディアから消されてしまっていると述べています。

  その背景にあるのは、軍需産業にとって大きな市場の拡大のチャンスでもあり、兵器買い上げの機会でもある、ということを忘れてはならないと思います。