「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

36年前、仏文学を教わった三野博司先生に新訳「ペスト」(カミュ作)についてお話しいただきました

 YouTubeチャンネルの「フランスを読む」で、昨年、岩波文庫から71年ぶりのカミュ作「ペスト」の新訳を刊行した三野博司・奈良女子大学名誉教授にご登場いただきました。私は大学時代、三野先生に第二外国語のフランス語を教えて頂きましたが、今回、36年ぶりにコンタクトを取らせていただき、快く出演を引き受けていただくことができました。実は当時の講義のテキストを、私は今も持っております。非常に充実した講義と読書の体験であったわけです。

 テキストはロジェ・グルニエ(Roger Grenier) 作「La correspondance」という短編集です。パスカル・ルヴィエールという名前の南仏の青年が大学進学に臨んで、アルバイトとして、ある中学校の宿舎で学生指導の仕事に着任します。そこで、初めて大人社会の実態を垣間見て、うろたえます。グルニエの小説は面白く、不安と困惑に満ちた世界に共感することができました。白水社から出たこの教材を編集したのは宮下志朗氏(現在、放送大学教授)です。私が持っているのは1885年10月に刷られた第3刷で、ということは私が受けた講義は1986年、大学の2回生(関西では2年生をこういう表現をします)の教養時代でしょう。今回お聞きした話で、私が教わっていたその当時、三野先生はフランスの大学院の博士論文で、カミュ論をフランス語で書いていたことを知りました。この論文「アルベール・カミュの作品における沈黙」(1987)はフランスでそのまま出版されているので、かなりハイレベルの内容だったのです。三野先生は国際カミュ学会の副会長も経験したカミュの国際的な専門家で、このYouTubeの動画でも三野先生らしいカミュへの情熱があふれています。

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 36年前は昭和時代の末期で、その後、平成の30年を経て、今思えば冷戦が終わり、世界の経済構造が大きく変わった、その意味では激動の時代でした。1986年と言えば日本経済がアメリカを抜いたというような異様な景気に沸き立ったころで、私が初めて円高を利用した北米旅行をしたのもこの年でした。しかし、なんだか不思議なのですが、こうしてかつての先生の話をお聞きしていると、その30数年が幻であったかのような印象を持ちます。すなわち、三野先生は本当にずっとカミュに打ち込んでこられたのだなあ、ということなのです。