「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

アベノミクスとジニ係数  ~所得再配分後の数値に定義変更したら、労働者の所得格差は隠ぺいされるのではないか~

 最近、TVで知名度が上がって来た社会学者がある記事を推奨していたので読んでみると、安倍政権下のアベノミクスで貧困の程度を示すジニ係数が減少していたというのである。それはビジネスジャーナルの「『アベノミクスで格差拡大』という誤った認識が流布した理由…ジニ係数の読み方」というものだった。読んでみると、ジニ係数は1990年代半ばの0.44あたりから急激に右肩上がりで上昇し、第二次安倍政権の中盤で峠(0.57あたり)を越えたかのように減少傾向に転じて2017年に0.56あたりになる。とはいえ、20年近く右肩上がりで上がって来たものだから、減少傾向に転じたとはいっても、この記事のグラフでは0.01減少したというだけなのだ。そもそも2021年10月の記事だが、ジニ係数の数値は2017年までしか掲載されていない。その後も改善されていくような印象の→が付されているのだが、その先は数値が出ていないので読者にはわからない。

  一方、この記事では所得再分配後のジニ係数再分配所得ジニ係数)こそが重要だと説き、したがって安倍政権下で格差は縮小したと絶賛しているのである。2005年あたりに0.38をつけた後は、一般に減少傾向にあり、2017年は0.37台である。2008年から2011年にかけて微妙に上昇するのはリーマンショックの直後だからだろうか。「下がった」と鬼の首を取ったように言っているが、0.01変化しただけであるし、再分配前に比べると変動は少ない。格差を減らす方向に社会保障で手当がなされるからだ。

  この記事や社会学者の主張したいことを端的に言えば、手取りの給料がどれだけ格差が拡大しても、社会保障で緩和すればよいではないか、ということに尽きるように私には思われる。そして、この記事では税によるジニ係数の改善度はなぜかとても低い。税金で富裕層かから多くとるのではなく、社会保障で手当すればよい、というメッセージと読める。

  しかし、ちょっと待てよ、と思ってしまう。まず、ジニ係数を再配分後の数値にすることはジニ係数の意味合いを従来から大きく変えることではないのだろうか。ウィキペディアで恐縮だが「ジニ係数(ジニけいすう、英: Gini coefficient)とは主に社会における所得の不平等さを測る指標である。0から1で表され、各人の所得が均一で格差が全くない状態を0、たった一人が全ての所得を独占している状態を1とする」とあり、ジニ係数は所得の不平等さを図るための基準であるのだ。それは再配分前だからこそ意味があるのではなかろうか。社会保障で手当てすれば、所得の格差は広がっても構わないのだろうか。記事はそう主張しているように感じられる。しかし、そういう風にジニ係数の意味を逆転させれば、所得の格差が見えなくなってしまうだろう。そして、そのことは日本における労働者の待遇と所得格差の源泉となっている労働者派遣制度あるいは非正規雇用の実態から目をそらさせることにもなりはしまいか。ジニ係数とは何のための指標なのか。

  安倍政権のレガシーには公文書改竄や統計の偽造あるいはおかしな統計がある。統計のやり方を急に変えて数値が改善されたように見せかけたことが安倍政権時代に告発されていたことを覚えている人は多いのではなかろうか。社会保障で補えばよい、という方向でのジニ係数の再定義の勧めだが、実際には生活保護を受けている人がバッシングされるのはしばしば起きている。たとえば生活保護を受けている人がたとえば、パーマをかけたら贅沢だなどとバッシングされるのである。そもそも社会保障に頼らなくてもよいような制度を作ることこそが政治の優先課題なはずである。


■安倍首相が誇る雇用増の実績は本当? ファクトチェック(2019年 朝日記事)

 「総務省労働力調査(年平均ベース)によると、企業や団体などに雇われている雇用者のうち役員を除いた働き手は、第2次安倍政権発足後の2013年から18年までの6年間で383万人増えた。『380万人増』という主張は正しい。ただ、増えた働き手のうち55%はパートやアルバイトなど非正規で働く人々が占める。非正規で働く人の多くは所得が少なく、不安定な生活を送っている。総務省が5年ごとに公表している就業構造基本調査によると、非正規で働く人の75%が年収200万円未満だった。」

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