「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

中国版ロスジェネ世代とコロナデモ  1989と2022の違い

 

 この2~3日は中国のデモの行方について興味がそそられ、天安門事件以来の激動の予感すら感じました。仮に現政権が民衆を抑え込んだとしても、こうした反政府的な意識がこれほど覚醒してしまうと、必ず数年後に激震が及ぶ可能性があります。

  天安門事件が起きたのは1989年で、日本では昭和から平成への転換点でした。中国にとっては経済がテイクオフした頃であり、民主化運動を抑え込んでも経済的に豊かになって夢が持てる時代だったのです。一方、日本は今から振り返ればコインの裏表のように、工場空洞化が進み、高度経済成長が終わり、衰退に転じていく過渡期でした。しかし、30数年後の今、中国は中進国の罠に日本同様にかかり、工場は労賃が安いインドやアフリカやインドネシアなどにシフトしています。

 こうした中、中国経済は安倍政権時代と同様に第三の矢だったイノベーションが上手くいかず、先進国の猿まねしかできなければ、長期的な下降に転じる可能性があります。少子高齢化も日本と同様ですし、ドイツのDWの報道を見ると、中国で起きているのは中国版ロスジェネ時代への突入ではないでしょうか。若者たちの5人に1人が就職できないと訴えていました。私にとっては、天安門事件以後、初めて中国人の顔が見えた瞬間です。

  日本での報道を見ていると、習近平の強面する顔と軍事大国化ばかりが強調され~それが自民党による日本の軍事予算2倍要求につながっていますが~ドイツのDWの報道を見ると、中国の内部にメスを入れています。中国は確かにハイテクや研究開発に力を入れてきたと思いますが、人口を考えれば豊かさがすべての中国人に行き渡るには程遠いのかもしれません。DWの報道の優れているところは、工場その他のコロナ禍のデモという直近の事象だけでなく、危機が10年前から進行していたことを分析して報じていたところにあります。すなわち、若者たちが大学を出ても就職できない現実が右肩上がりで増加していたトレンドです。

   この10年前は、日刊ベリタでも稲垣豊氏が中国における工場のデモを報じていたのが思い返されます。すなわち、農村から沿海部の工場群に出稼ぎにくる余剰人員が払底し始め、労賃が上昇に転じ始めた転機でした。そして、あれから10年は習近平国家主席(任期2012~)の10年です。中国にとっては日本の1980年代~1990年代と同様のかじ取りの難しい転機になぜこれほど絶大な権力者が登場したかを読み解くヒントがここにあるように私は感じました。しかしながら、1989年の政治的弾圧の時は一党独裁権力を維持できた中国共産党政府でしたが、状況が一変して経済的に逆風の中、政府は国民に何を保証することで事態を抑えることができるのでしょうか。社会主義エートスは今も残っているのでしょうか。

  中国では2021年の全人代で格差撤廃方針を唱えられましたが、大企業経営者たちや富裕層は中国共産党の政策に共鳴できるのでしょうか?そもそも、格差是正習近平が2012年に国家主席に抜擢された当初から掲げられた最大と言ってもよい課題だったのです。あれから10年が過ぎ、ついに人々は「皇帝はいらない」と公衆の場で叫び始めました。本当の皇帝の力を習国家主席が持っていれば、中国のような一党独裁の国であれば、富裕層の富を瞬時に大衆に分かち合うことができたはずです。それが変化なく10年間温存されたということは、国外に対する強面の張り子の虎だった可能性が否めません。

  その意味では中国政府が今回、どのような対策を打ち出すかが注目されます。また民衆や若者がそれをどう判断するか。すでに危機は10年前に顕在化していたのです。


※ロイター(2013年3月)「中国全人代、所得格差への対処が習近平・新国家主席の主要な課題に」

※毎日(2021年3月)「『共同富裕』具体策検討 格差是正、実現難しく」

※中日(2022年3月)「不動産税、格差是正の切り札 全人代、景気冷え込む恐れも」

NHK(2022年9月)「貧困ゼロを宣言した中国 データで見る中国の不都合な現実」