「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

『もう一度・・・やり直しのための思索 ~フーコー研究の第一人者による7つのエッセイ~』

   2020年5月にこの本を翻訳出版して3年目が近づきつつあります。人生で初めての本の翻訳ということで、挑戦でした。特に本書は癖のある文体をわざと書いているので、日本語の訳文も、原書にある一種の文章の癖というか、難解さを消さないように努めました。というのは、著者は新しい言語体験を試みているのであり、そのことがテーマとも重なっているのです。言葉は手あかのついた伝統的なものですが、それを用いて新しい体験を作ろうとして工夫するわけです。ですから、それをすらすら読める日本語に置き換えてしまうと、作者の精神が失われるような気がしました。そういうわけで、本書はすらすら一気に読める本ではありません。むしろ、詩集に似て、長い時間をかけてその意味を一人一人が読み説いていく、さらには参考にあげた本を読んで、読者自身が本を膨らませていくという読者の主体性を要求する本です。要求度は高いです。この本を紹介するシンポジウムがあり、面白そうだと思ったので、まずは年末から企画書を書こうとしました。ところが原書はわずか70頁ながら、読めども読めども「・・・・」(なんだこりゃ~と)理解が及ばず、脂汗を流す、という次第でした。今までに読んだことのない類の文章や論理展開だったのです。最初は70頁だから楽勝楽勝と思っていたら、大間違いでした。

  結局、監修してくださったフランス人翻訳者のコリーヌ・カンタンさんの助言と朱筆の力で、何とか出版にこぎつけました。カンタンさんに添削していただいたことと、直接著者にメールで何度も問い合わせることで私は本書の意味をようやく完全に理解することができました。

  翻訳者として最初の1冊が本書であったために、その後、フランス語の辞書をノートに丸写しして勉強し直す、という体験をすることになりましたが、それが実現できたのはコロナ禍で海外取材が全然できなくなったという外的事情もありました。辞書にはその国、その文化圏の人々の暮らしや文化が濃縮されており、それをじっくり「読む」ことは歴史を学ぶことでもあると教えられたのです。今の時代、本は噛まなくても口の中でとろけるようなものが増えていますが、本書はビーフジャーキーのように噛み応えがある1冊です。