「ニュースの三角測量」

ニュースを日英仏の3つの言語圏の新聞・ラジオ・TVから読んでいきます。アジア、欧州、アメリカの3つの地点から情報を得て突き合わせて読むことで、世界で起きていることを立体的かつ客観的に把握できるようになります。それは世界の先行きを知ることにもつながると思っています。時々、関連する本や映画などについても書きます。

Wordingの重要さ  成人教育の鍵


 英国の社会主義者ジョージ・バーナード・ショーが書いた戯曲『ピグマリオン』は映画化され、オードリー・ヘップバーン扮するロンドンの下町の娘が、下町言葉をオックスフォード大学の言語学者によって矯正される物語として有名です。これは英国が階級社会だったことが言葉に如実に表れていることを示したもので、単にアカデミックな言葉を知っているかどうかだけでなく、発音自体も階級で大きく違っています。

 いわゆるネトウヨという言葉がありますが、左翼か右翼かは別にして、SNSで互いに罵声を浴びせている場合、『ピグマリオン』におけるような「下町」性が言葉に如実に出ていることが多々ありますね。ネットでは簡単に、絡むことができるわけですが、ネットの無かった時代なら、現実の階級社会の中で、絡むだけの至近距離で会話をすること自体が簡単ではなかったでしょう。言葉遣いが下品であれば、就職も限られてしまいます。そういう意味で、ショーはこの階級差のある男女の間で、言葉の習得をめぐる男女の葛藤を恋愛喜劇にしたのですが、極めて着眼が優れています。

 私は成人教育、あるいは生涯教育の柱は日本語であれ、英語であれ、言葉の癖を修正して、より洗練された言葉、より的確な言葉がつかえるようになることが鍵だと思っています。そのためには、辞書を読むことが重要です。言葉は生まれながらに誰でもしゃべれますが、それは親から受け継いだ言葉であり、実は言葉の運用能力やワーディング(運用する言葉)で家庭ごとに大きな差があります。多くの場合、家庭で受け継いだ言葉をそのまま大人になっても維持します。しかし、成人教育では子供時代の家庭環境とは別に、そこにはなかった言葉を学ぶことが大切ではないかと思います。その意味では、まず日常使っている日本語の学び直しが必要になります。とはいえ、社会に格差が生まれ、階級差が復活し、教育水準も差が開いていくと、だんだん住む場所も異なりますから、同じ日本人であっても違った階級の言葉に触れる機会は少ない、あるいは少なくなっていくと思うんですね。そして、その傾向が増せば増すほど、異なる階級の人々とは会話もしなくなるのです。今、日本は急速にそうした「昔」に戻っていこうとしています。

   誤解なきようにしたいのは、wordingの勉強は、上流社会の言葉を使って富裕層の世界に格上げを目指すということとは異なることです。適切な言葉を使うことは、相手に対する敬意を失わない事であり、また自分の思いをより適切な表現で語る、ということです。今の自分の話法に対する批判を自ら起こす必要があります。これはなかなか気づくのが難しいものです。自分自身に対する批評の目を持てるか持てないか、難しいことですが、このことが将来のSNSにおける書き手の質を決定するでしょうし、wordingの進歩の無い人は結局は読まれることがないでしょう。